ブラジルとクロアチアの一戦は見応えがあった。噂どおりロナウジーニョが素晴らしい。開始早々の前半2分、挨拶がわりの3人抜きのドリブル突破を見せて、いきなり観客の度肝を抜いたが、さらに前半15分にはボールを低くバウンドさせて地を這わせる新技術のシュートを披露し、見る者をすっかり魅了してしまった。ロナウジーニョのステップは華麗で美しい。他の選手と動きが違う。画面のどこかにロナウジーニョが入って来るとすぐに分かるし、ボールとカメラがロナウジーニョを中心に絵を作る。まさにドラマの主人公。クロアチアはロナウジーニョがゴールに接近すると、4人がかりで取り囲んで防御していた。前半30分には5人で囲む場面もあった。囲んだ5人をロナウジーニョが引き摺っていた。体も強靭で簡単に崩れない。4人に囲まれても正確にパスを出す。ロナウジーニョがディフェンスを引きつけるから、パスを受けた選手の前にスペースが空く。そういう場面が何度かあってブラジルは決定的なチャンスを作っていたが、FWのロナウドの動きが緩慢で、シュートする前にボールをクロアチアに奪われていた。そのクロアチアは評判どおりの強豪チームで、ブラジルとも互角の力で試合を戦っていた。前半は押され気味だったが、後半は逆に攻撃の主導権を握ってブラジルのゴールを脅かしていた。カカが前半に決めたミドルシュートは、カカの天才を誉めるべきで、クロアチアのディフェンスには何のミスも無かった。だから王者ブラジルも90分間で1点で終わっている。今回のW杯全体でブラジルを1点で押さえられるチームが他にあるだろうか。セルジオ越後もスポーツ紙で「日本よりも実力は上だね」と断じている。豪州戦の日本とブラジル戦のクロアチアを比較して、日本の方が実力が上だと言う人間はいないだろう。対戦は午後3時からで、また炎暑の中での試合が予想される。普通に考えれば、蒸し暑い気候に順応しているはずの日本人の方が暑さを味方にできそうだが、豪州戦を見るとそうは言えない。ロートルが並ぶ日本の方が先に足が止まるのではないか。中田英寿はその点が不安だろう。クロアチアが零封されたのは、ブラジルの守備が完璧だったからで、ブラジルのディフェンスはドイツより上で世界一だ。
ブラジルのパレイラ監督は、「クロアチアのマークが厳しく、決して初戦だから苦労したわけではない」と試合後に語っている。本音だろう。クロアチアの闘争心は見事だった。個人的にはこのチームを決勝Tに進出させたい。ブラジルと再戦させてみたい。日本にとってラッキーなのは、日本の中田英寿(あるいは宮本恒靖)と同じ司令塔の役割でゲームメイクする主将のニコ・コバチが負傷して離脱したことだろう。このコバチが魅力的な男で、つい心を惹き寄せられる個性を持っている。印象として、頭がよく勇敢で強いリーダーシップを持ったナイスガイ。34歳。私が女なら、こういう男を好きになる。豪州戦を見たあと、「日本はあの実力では一次リーグ突破は不可能だ」とテレビで言い切ったが、そのときの表情がよかった。言葉もよかった。ブラジル戦前半で見せたドリブルもよかった。離脱は惜しい。ここまでの観戦で印象に残ったのは、クロアチアのN.コバチ以外では、オランダのFWのロッベンがいる。ロッベンについては事前知識がなく、こんな凄い選手がオランダにいたとは知らなかった。これまで無名だったのだろうか。
明らかに、ロナウジーニョに次ぐ世界第2位の実力の持ち主と言っていいだろう。俊敏で軽快。よく言われるところの「日本代表の決定力不足」という場合の「決定力」のまさに理念型がロッベンである。背が低く、プレーも欧州の選手というより南米の選手の型に近い。オランダと言うと、トータルフットボールで組織的機動的に試合運びをするイメージがあり、欧州型のスタイルの典型かと思っていたが、今回のロッペン中心に得点する方法はそれとは全く逆で、意表を突かれた感じがする。ロナウジーニョ、ロッベン、それに続く三番目の選手を挙げると、やはりブラジルのロベルト・カルロスになる。W杯の常連で年齢も33歳になったが、能力は全く衰えた様子を見せない。守備的MFの位置からゴールに上がって攻撃参加する。左足からのミドルシュートが絶妙で、クロアチア戦でも得点にはならなかったが名刺がわりの一発があった。ロベルト・カルロスのミドルシュートはドラマティックで興奮と余韻が残る。ベッカムの柔らかいファンタジックな弧を描くミドルとは対照的なストレート。その後の表情を変えないマスクがいいのだ。
さて、川渕三郎が滞在先のデュッセルドルフからボンまで車を飛ばし、ジーコを励ます絵をマスコミに撮らせていた。いつもながら川渕三郎の心遣いと優しさには人を感動させるものがある。立派な指導者だ。が、今回は川渕三郎も何となく予選突破で任務完了の雰囲気が漂っていた。日韓のときは決勝T進出が課題だったが、ドイツはそこまでの必達目標が求められていない。「ご苦労さま」と慰安する感じだっただろう。ジーコは日本のあと欧州の国の代表監督への就任を希望しているらしいが、あの豪州戦を見てジーコをオファーする国が出てくるだろうかと心配になった。日本から離れなくても、言わば「政治家」としてジーコはJFCで頂点に近い名士である。ドイツ大会出場の実績は大きいし、日本のサッカーをここまで育てた最大の貢献者の立場である。監督を離れても、何らか川渕三郎とコンビで指導的位置を保ち続けることは可能だと思うが、果たしてどうなるのだろう。中田英寿は選手としてW杯に臨むことは最早ない。これが最後の大会になる。で、どの時点かで日本代表監督になるはずだ。本人も指導者をやりたいだろう。
私は、思い切ってポストジーコを中田英寿にしてもよいのではないかとも思うのだが。それは早すぎるだろうか。
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