史上もっとも有名なロボットの一人、
「鉄腕アトム」初のオリジナル長編劇場版。
そして日本以外で作られた、最初のアトムとなった。
海外製作という事で、色々と心配する向きもあるようだが、杞憂である。
アトムで育った子供たちは、何も日本人だけではない。
香港に拠点を置く
イマジ・アニメーション・スタジオが製作し、キャラクターの声をそうそうたる
ハリウッドスターたちが演じ、英アードマン出身の
デヴィッド・バワーズ監督が纏め上げたこの作品は、言わば世界中のアトムの子たちが作り上げた夢の結晶だ。
生活の面倒の全てをロボットが見てくれる夢の空中都市メトロシティ。
科学者のテンマ博士(ニコラス・ケイジ)の息子トビー(フレディ・ハイモア)は、父親譲りの天才児だが、ある時戦闘用ロボットのピースキーパーの暴走事故に巻き込まれて命を落とす。
テンマ博士は、息子の髪の毛から記憶を抽出すると、トビーそっくりの姿に作ったロボットに記憶を移植、究極のエネルギーであるブルーコアによって起動させる。
ロボットとして蘇ったトビーはしかし、やはり完全に元のトビーではなく、息子そっくりな姿に心をかき乱されたテンマ博士は、ロボットのトビーを拒絶してしまう。
家を失ったロボットは、自分の居場所を探すためにメトロシティを去って地上へと降り、そこで出会った人間の子供たちに、アトムと名乗る。
一方、ピースキーパーの完成を急ぐストーン大統領(ドナルド・サザーランド)は、ブルーコアがアトムに使用された事を知ると、回収してブルーコアをピースキーパーに使用せよと命令を出すのだが・・・今年で亡くなって早20年となる
手塚治虫が、アトムという傑出したキャラクターを生み出したのは今から58年前の1951年。
「アトム大使」というSF作品に登場し、宇宙に住む
2つの人類の対立を仲裁するロボットというキャラクターだった。
翌1952年にスピンオフの様な形で、「鉄腕アトム」が連載開始。
そして1963年1月1日からは遂に
テレビアニメの放送が始まり、爆発的な人気を獲得するのである。
欧米でも「ASTRO BOY」のタイトルで放送され、日本のサブカル系キャラクターとしてはゴジラ以来の知名度を持つに至り、
日本アニメの世界進出の突破口を作った作品でもある。
アードマン初の長編CGアニメ、
「マウス・タウン ロディとリタの大冒険」を手がけた事で知られるデヴィッド・バワーズ監督は
アトムマニアを自認し、自ら本作の監督に名乗りを上げた。
テンマ博士を演じる
ニコラス・ケイジもまた熱烈なファンで、一時は自ら実写映画化を考えたという。
彼らアトムで育った
手塚治虫の継承者たちに作られた本作は、オリジナルの精神性とキャラクターを生かしつつ、世界観を大胆に改変し、長大な物語を94分というコンパクトなパッケージに纏め上げている。
おそらく日本人が作ったならば、ここまでの大きな改変は出来なかったはずで、このあたりの合理性はハリウッド的、あるいは香港的?
舞台となるのは、富士山と天空の城ラピュタが合体したような、浮遊する
超科学都市メトロシティ。
どうやらここに住めるのは選ばれた金持ちだけで、その他の多くの人間たちはゴミ溜めのような地上に暮らしているらしい。
バワーズと共同脚本の
ティモシー・ハリスは、この
新しい世界観に、オリジナルのキャラクターとエピソードを組み込むことで、映画版の物語を構成している。
もちろん足掛け16年間に渡って連載され、オリジナルのテレビシリーズだけでも200本近いアトムの全部を描くのは到底不可能なので、物語は極めて
シンプルなテーマだけに絞って展開する。
これは、テンマ博士の死んだ息子のコピー品として作られた、人間でも単なるロボットでもない中途半端な存在であるアトムが、
自分はなぜ存在するのか、自分の居場所は何処なのかを見つける物語である。
ここで上手いのは、
アトムの葛藤を裏返せば、そのまま生みの親でもある
テンマ博士の葛藤でもあるというロジックで、父と息子(の姿をしたロボット)二人のすれ違う心が、物語を重層的にしており、単なるアクションに大人の鑑賞に堪えるドラマ性を付加している。
映画のテンポは非常に早く、トビーが事故死してアトムが誕生するまで僅かに15分程度で展開する。
正直、物語のディテール描写ではさすがにやや
端折り感が出てしまっているが、全体にオリジナル同様子供向けを強く意識した作品であり、子供を飽きさせないためにはこのぐらい矢継ぎ早の展開でもいいのかもしれない。
SF的な考証の部分も原作が発表された
50年代的な大らかさだが、お父さんたちも脳内スイッチをちょっと逆行させれば、ついていけない程ではない。
髪の毛から記憶を抽出できるなら、ロボットより
クローンを作ったら?とか突っ込んではいけないのだ。
この世界にはクローンという概念は無いのだろう、たぶん。
「ツインズ」や
「キンダーガートンコップ」などのコメディ作品で知られるティモシー・ハリスのテイストだと思うのだが、思ったよりもユーモアの比重が高く、笑いとアクションで盛り上げながら、最後にはしっかりとテーマを形作るという脚本の出来は悪くない。
日本アニメをかなり研究したと思しき、バワーズ監督の演出も快調で、ロボットバトルのシーンは、
CGならではの迫力がある。
予告編で物議をかもした
キャラクターデザインも、個人的にはあまり気にならなかった。
アトムは漫画のデザインと声を演じるフレディ・ハイモアを掛け合わせた様なルックスで、確かに
やや西洋的なのだけど、テンマ博士や御茶ノ水博士といった御馴染みのキャラクターに映画オリジナルのキャラクターたちを含めて、
デザインテイストは揃えられているので、直ぐに違和感はなくなる。
むしろ街の看板がヒョウタンツギだったり、アトム開発チームに手塚治虫がいたりする遊び心から、作り手の
アトム愛が伝わって来て楽しい。
「ミュータント・タートルズ TMNT」などを手がけたイマジ・アニメーション・スタジオによるCGも、殆どのハリウッド製CGアニメと遜色無い出来だ。
まあピクサー辺りと比べると若干落ちるのは確かだが、かけている時間とお金の差があるので致し方あるまい。
彼らの技術レベルの高さを見ると、現在同社で製作中のCG版
「科学忍者隊ガッチャマン」にも期待が持てるではないか。
「ATOM」はオリジナルの風合いを保ちながら、今風のCGアニメとして適度にリニューアルされた新世代の「鉄腕アトム」だ。
原作の持つ哲学性まで表現されているとは言いがたいが、オリジナルを知る世代も知らない世代も、これはこれで一つの
よく出来た娯楽作品として楽しむことが出来るだろう。
出来れば、この作品から始まる
新テレビシリーズとか観てみたい。
私は以前、オリジナルのテレビシリーズのスタッフだった方に、当時の制作の裏話をインタビューした事があるのだが、果たして彼らはこの
デジタルアトムをどう考えるだろうか。
機会があれば是非感想を聞いてみたいものである。
映画は東洋と西洋の融合で生まれた作品だったが、お酒の世界でも異文化交流は盛ん。
今回はフランスで活躍する日本人によって生まれたスパークリング、ル・デュモンの
「クレマン・ド・ブルゴーニュ・ブラン・ド・ブラン」をチョイス。
ル・デュモンはフランスワインでありながら、
「天地人」の漢字ラベルで有名になったが、このスパークリングのラベルはまた違ったユニークなデザイン。
お味の方も柑橘類の風味を感じさせ、細やかな泡が口の中でアトムの様に飛び跳ねる、華やかで楽しい酒。
これからのホリデーシーズンの食卓にお勧めだ。
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