世の中には、当然のことかもしれないが、井上陽水の好きな人種と嫌いな人種がいる。なんで、そんなところから書き始めたかというと、わたしは十数年前の地方勤務の際、会社の上司から「カラオケで陽水は歌うな」と命令調で言われたからだ。どうやら、その上司は陽水を生理的に受け付けないのだな、と分かった。僕の当時のレパートリーには、陽水が多かった。それを聴いて嫌になっていたのだ。当時から、カラオケで都はるみの「おんなの海峡」なんかは歌っていたのだが、どうしても歌っていくうちに陽水になってしまう。

 わたしが言うまでもなく、井上陽水は間違いなく日本の生んだ不世出の天才である。歌が斬新だ。特に歌詞がユニーク。その典型は「傘がない」であろう。「都会では自殺する若者が増えている」と歌いだす。まず、歌詞に冒頭から「自殺」なんて入れたのは、ほかに例をみない。よくレコード会社が許したな、と思う。そして「だけども、問題はきょうの雨。傘がない」と歌は続く。世の中には大きな事件事故があり、喜怒哀楽がいっぱいある。でも、自分個人の目の前の小さな問題が自分にとっては、すべてなのだ。1970年代までには、そういう「自分の在り方」、世界観を軸にすえたような歌がなかった。陽水が切り開いた地平は無限大だ。タブーにさりげなく挑んだ先駆者である。

 理屈はよそう。井上陽水で好きな曲は何かと問われれば、躊躇なく「リバーサイドホテル」を挙げる。この歌詞のでたらめさは半端ではない。詮索する気はないが、「金属のメタルで」、「川沿いリバーサイド」と重複を平気で歌っている。それから、「川に浮かんだプールでひと泳ぎ」という個所があるが、そんなもの、ありえますかねえ。でも、いいのです。すべてが仮想世界、幻想と思えば。何でも許せるのです。この歌には多数のコメントが寄せられているが、その中に「クレーの絵のような」という、さすがなコメントがあった。まさにクレーだ。ダリではなく。「歴史的世界的傑作」という賛辞もあった。「飾りじゃないのよ涙は」も素晴らしい。前奏部分から時折、アップになる女性ベース奏者、すごくかっこいい。

 タイトルに書いたように、宇多田ヒカルとの共通点も多い。まず楽曲が斬新なこと。それまでの既成概念を破った。自作自演も共通している。デビュー曲「Automatic」を懐かしさを込めて、聴いてください。それから、著作権を理由に、YOU TUBEからの削除を求める動きが、アーティスト、レコード会社などから強まっている中、2人は割り切ってかどうか知らないが、自分の映像・音声をほとんど無制限に許可しているように見える。むしろ、YOU TUBEを積極的に利用する考え方なのかもしれない。宇多田はもっとも、PV(プロモーションビデオ)がほとんどだが。「Wait&See」のように、近未来的な乗り物に乗って、渋谷を飛ぶといった面白いCGのPVが多い。

 そして極めつきは、もちろん「First Love」でしょう。この素晴らしいバラードは一度聴いたら、忘れられないものだ。イントロが特に好き。ウィキペディアによると、この曲をメーンにしたアルバムは日本内外で990万枚売れ、日本の歌としては(歌じゃなくてもだけど)史上1位の記録を塗り替えた。この記録は現在も破られていない。という枚数の話ではなく、この人の感性はどこから来たのか、が?である。母、藤圭子もYOU TUBEで聴くことができる。例えば、代表作の一つ、「圭子の夢は夜ひらく」。このブルースの味は、確実に娘に引き継がれている。ハスキーな声質も。そう思いませんか。この味わいと、アメリカ生活で聴いたであろう、ポップスやR&Bが宇多田ヒカルの中でうまく融合したと言えるかもしれない。

 バラードと書いてきて、近年のこの人たちのYOU TUBEもここで紹介しておきたい。わたしの好きな曲という意味で。まず、コブクロの「流星」。これは長く残る名曲中の名曲でしょう。デュオ2人の声の質が違うところに、しびれる。デュオといえば、ゆす、もかなり好きだ。NHKのアテネ五輪テーマソングになったので、みみたこ、になった感があるが、「栄光の架橋」もまた名曲と言えるだろう。ゆず、は映像付きのものがあまりないのが残念。アヤパン(高島彩)と結婚したのはどっちだっけ。

 ここで、都はるみファンとして、こんなに「浮気」をしていいものだろうかと、自問自答する。なので、昭和の演歌に戻って、今年の最後を締めくくりたい。推薦するのは三橋美智也(1930〜1996)の「星屑の町」だ。昭和37年=1962年(半世紀前ですよ)の歌だが、わたしは古さを感じない。ハイトーンが澄み切っていて、爽快になる。ちなみに三橋は、18枚のミリオンセラーを持ち、総セールス・レコードが1億枚を超えていて、2005年時点では(ウィキペディアによる)日本の歌手のトップである。この「星屑の町」をわたしが最近猛烈に好きになった、ちあきなおみが歌うとこうなる。歌手によって、こんなに違ってくるんだ。

 皆さん、よいお年を。

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