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評価:
桐野 夏生
集英社

小説は悪魔ですか。それとも、作家が悪魔ですか?かつて小説家の緑川未来男は、愛人の存在に嫉妬した妻の狂乱を『無垢人』という小説で赤裸々に書いた。そして今、小説家の鈴木タマキは、己自身の恋愛の狂乱と抹殺を『淫』という小説に書こうとしていた。『無垢人』と『淫』を繋ぐ、「○子」とは誰か?やがて「○子」は、書く人と書かれた人と書かれなかった人々の蠢く小説の此岸の涯へ、タマキを誘っていく。【BOOKデータベースより】

この作品は少々複雑でした。まず、主題の作品は「無垢人」という作中作。作者は緑川未来男。その愛人と妻の関係を描いた作品で、これは緑川本人の半生を描いたとものです。その作品に出てくる、愛人○子について、小説家のタマキが探っていくんですが。

そして、その半生と自分の恋愛とをつなぐ「淫」という小説に書こうとしているんですね。資料を集め、関係者との話を聞きだしていくんですが、それが自分の恋愛と重なっていきます。
当然ながら、タマキ自身も編集者とダブル不倫関係にあります。そうした、恋愛の泥沼からどう決着をつけていくのか。いわゆるこの作品のテーマになっている「恋愛の抹殺」について、提起されているんですね。

タマキ自身の決着は、決して自分ではどうすることもできないものだったんですが、彼が現れた時に、涙でしたね。そして、そっと送り出すタマキの姿にも。

そんな少々複雑な作品でありながら、結構はまって読んでしまいました。
さて、作中作「無垢人」のモデルは島尾敏雄「死の棘」。わたしは未読なんですが、こちらも読んでみたくなりました。しかし、こちらも私小説なのでかなり壮絶。体力、気力が充実していないと、無理かな。この作品以外にも、作品の中に林芙美子のこともちらっと出てきますが、こちらはもうすぐ発売される「ナニカアル」を読めばきっとわかるはずです。

さて、この小説、「恋愛の抹殺」というのがテーマとはなっていますが、緑川の愛人と妻、タマキの愛人との関係など、どう抹殺されるかよりも、人間の心にある、「淫」、「隠」、そして基となる「因」について、考えさせられる作品でした。外に向かう小説ではなくまさに「IN」ですね。
決して気分が晴れるわkでもなく、清々しい結末があるわけでもないのですが、人間とは、男と女とは何かを考えさせてくれる小説でした。

桐野夏生さんはどこに向かうのかなー。新作も楽しみです。
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