「食中毒なの?」
 惨めな気分でうなずいた。それと同時に、電話が鳴った。野村が素早く受話器を上げた。
「はい、分かりました。保健所へは私どもから……」
 野村の声がどこか遠くから聞こえてくるようだ。胃の辺りが絞られるように痛んだ。

「繁殖」仙川環著(小学館文庫)   ISBN:9784094082302 (4094082301)

楽しい幼稚園での食事会が暗転した。子供たちが次々に、嘔吐や腹痛に見舞われたのだ。しかも単純な食中毒ではないらしい。苦悩する教諭の聡美と、恋人の桧垣。

「小さな物語」だ。環境問題やバイオテクノロジーを背景にはしているが、驚異の技術とか息詰まるアクションは登場しない。結末の「納め方」もちょっと消化不良。代わりに、登場人物たちの目の前にいる恋人や妻子への思いが、丹念に描かれる。可愛い子供たちの写真を使ったカバーの印象がぴったり。

「医療ミステリー第3弾」と銘打っているものの、そういうシリーズ感はあまりない。もしかしたら、何か全く違ったタイプの物語への、小さな助走なのか。たて続けに発刊となる次作が気になる。(2008・1)


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