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阿部和重『シンセミア』
以下の文章は2009年夏に再読した時に書いたもの。
新聞の書評で知った『シンセミア』。
◆第十五回伊藤整文学賞受賞
◆第五八回毎日出版文学賞受賞
芥川賞受賞以前に執筆した大長編作品。野原で美少女が佇む美しい表紙だが文学R指定。神町(じんまち)で起こる壮大なミステリー。大多数の登場人物が、欲望を充たす為に倫理に反することや、人によっては眉をしかめる行動が起こし、エゴイズムのインパクトに圧倒された。登場人物に感情移入できぬまま、事件の真相を知りたく読み進め加速していく。いつしかわたしも神町の傍観者になっていた。また、情景描写が巧みで映像が浮かんでくる。後半、堰を切ったように、物語は核心部分をえぐりだし相関関係が徐々に判明、絡み合った糸がだんだんほどけていき神町クロニクルであることが判明する。
秋葉原事件や無差別殺人などの報道を耳にするたび、虚構の世界でしかありえないと思っていた悪夢のような犯罪が、現実の世界で起きて実社会を侵食。この本が予見したような錯覚に陥る。犯罪が多い小説はその作風に飲まれてしまい、人によっては敬遠しがちな題材なのに読み手に嫌悪感を与えない。いや、わたし自身起きなかったというべきかもしれない。犯罪に手を染める過程が二十一世紀の黒い社会の縮図のように思えた。読後感は凄い小説家、阿部和重の登場と作風にノックダウン。村上龍の初期作品のように凶暴で鋭利な刃物で気持ちをえぐり晒し、麻薬のような物語で心を鷲掴みされた。
文学でしか表現できない群像劇であり、エピローグのアメリカと小麦粉の歴史は、日本人として知るべきこと。またモラルに関しては今だからこそ読んで欲しい本。
辛口書評で有名な豊崎由美が『文学賞メッタ斬り!』で大絶賛しているのが『シンセミア』で、2004年春に読み終えた後知った。
芥川受賞作品『グランド・フィナーレ』と『ニッポニアニッポン』もこの作品と繋がりがあるので、興味を持った方はご一読を。また、神町クロニクルの第二部 が文芸誌『群像』で『ピストルズ』が連載中。
神町クロニクルを今後も読み続けたいと思っている。
尚、『ピストルズ』は2010年春に出版。
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