高校で殺人事件があった、と通報があった。生徒の一人が、別の生徒を刃物で刺した、と。被害者の死亡は既に確認されている。
現場に着くと、そこには異様な雰囲気が漂っていた。俺が一番乗りだったようで、制服警官以外刑事は見当たらない。
校庭に、そこだけぽっかりと空いた空間があった。その中心に、刃物を持った学ランを着た男の子が立っていた。その周囲を、生徒や教師が遠巻きに囲んでいる。
加害者と思しき男子生徒は、ナイフを持つ手をだらんとさせたままただ立っていた。俺の姿を目にすると、刑事だと分かったのだろうか、彼は俺の方へと近づいてきた。途中、自分がナイフを持ったままであることに気づいたようで、ナイフを地面に投げ捨てた。
目の前までやってくる。
「俺は逮捕されるんですか?」
不安がっている様子はない。授業中に分からないところを堂々と質問しているような雰囲気だ。
「君が何をしたかによる」
「人を殺しました」
「なら、逮捕だ」
俺は手錠を掛けるのは止め、そのまま彼をパトカーに乗せた。
「一つだけ聞いてみてもいいか」
「はい」
「何が原因だった?」
「何のですか?」
「だから、何で人を殺したんだ?」
「あぁ、足が折れてたからですよ」
「は?」
こりゃあ大変な事件かもしれないな、と俺はぼんやりそんなことを思った。

学は家に戻ると、まっさきに馬の元へと向かった。僕の家は、競走馬を調教し管理する仕事をやっている。自宅近くに厩舎があり、そこに馬が繋がれている。調教師と仲良くなっていた僕は、いつ行っても馬と遊べるようになっていたのである。
厩舎に着くと、一頭の馬が消えていた。僕のお気に入りだった馬だ。調教師のおじさんにどこに行ってしまったのか聞いてみる。
「足が折れちまったからなぁ、殺しちまうしかないんだわ」
その時僕は初めて、使い物にならなくなった馬を殺しているという事実を知った。
「それ、僕にやらせてくれない?」
調教師のおじさんは困った顔をしていたけど、それでも最後には折れてくれた。その馬を僕が可愛がっていたことを知っていてくれたからかもしれない。
僕が人を殺すのは、この日からちょうど5年後のことである。

一銃「殺された理由」

適当すぎますね。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は連作短編集になっています。それぞれの内容を紹介しようと思います。

「銃弾になさけあらば」
土方歳三率いる新撰組が箱館にやってきた時、友近善次郎は馬を非難させることだけを考えていた。馬の種付けや繁殖・販売をしている善次郎は、近くにある村に住む伊作という老人の元へと避難することにした。
そこで妻と知り合うことになるが、しかしまた三次という男とも係わり合いになる。この男、他人を陥れて自分が利益を得ようとするような男で…

「牧場の流儀」
友近克也は、父親である善次郎が大きくした牧場で働いていた。父親は長男である夏彦を牧場の後継ぎと考えているわけで、克也は身の振り方を考えねばならない。
夏彦の婚約者である百合という女性がひと夏彼らと一緒に暮すことになり…。

「痩せ犬に似たり」
家を出た克也は放浪の旅に出ていた。旅の途中、甚吉というけちな悪党と知り合いになった。サイコロをつかったイカサマで稼いでいるような男で、好きにはなれないが嫌いというわけでもない男だった。結局甚吉は死んでしまうのだが…。

「借りた明日」
人殺しの罪で役人に追われていた克也は、空腹のために動けなくなり一軒の家で匿ってもらうことになった。彼ら一家は今ちょっとしたトラブルに巻き込まれていて、克也は一宿一飯の礼に彼らのトラブルに付き合おうと考えているのだけど…。

「眠り銃」
克也が牧場を出てから二十年という月日が経った。ある日どうも克也を探しているらしき男の姿を見かけた。かつての罪をまだ役人が追いかけているとでもいうのだろうか。それとも…。

というような話です。
この作品も、とある事情で読むことになった作品です。普段の僕なら手に取らない種類の作品ですね。
本作は、ちょっと僕には微妙な作品でした。
文章は相変わらず読みやすい、と思いました。とにかくくせがなくて、余計な文章がなくて、ストーリーがすーっと入ってくるような文章で、非常に好感が持てますね。
でも、ストーリーがあんまり僕の趣味ではなく、さらにそれを差し引いて考えても、あんまり面白いとは思えない感じでした。
ストーリーは正直言って地味です。そういう作品の中に、人間の深さや機微みたいなものを読み取って楽しむことが出来る人はいるんでしょうけど、僕にはちょっと退屈だなぁ、と思える作品でした。どの話も、結局最後は銃で解決するような流ればっかりで、また銃かよ、とか思いながら読んでました。ちょっと人を殺しすぎじゃないでしょうか。
繊細な人間関係をうまくストーリーに織り込んでいるところは作家の力量を感じさせますが、それでもやっぱりストーリー自体がちょっと地味すぎるので、ちょっと僕とは合わないかなと思いました。
表紙は結構好きなんですけどね。
しかし佐々木譲っていうのは本当にいろいろ書くんだなぁ、と思いました。これまで佐々木譲の作品は三作しか読んだことがないですけど、どれも作風が違いますね。解説によれば、かなり広範囲なジャンルの作品を書いているようですね。すごいものだと思います。ちょっとは興味を持って佐々木譲の作品を読んでみてもいいかなと思いました。文章読みやすいし。
というわけで、僕としてはあんまりオススメ出来ない作品です。ただこういう作品が好きな人はいると思うので、チャレンジしてみてください。解説氏によれば、「痩せ犬に似たり」は尋常ではないほどの傑作だそうなので、これだけでも立ち読みしてみるといいかもしれません。

佐々木譲「帰らざる荒野」


帰らざる荒野文庫

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