昨日テレビを見ていたら、マジシャンのセロが出ている番組をやっていた。
いや、ホントあれはすごい。
セロというのは今世界ナンバーワンと言ってもいいくらいのマジシャンであるらしい。ストリートで巧みに日本語を操りながら観客の度肝を抜くようなマジックを披露する。まさに見ていて驚くようなものばかりである。
例えば、目の前でうどんを親子丼に変える、イチゴシロップの乗ったカキ氷を宇治金時に変える、雑誌の携帯電話の記事から本物の携帯電話を取り出して見せるし(しかもその後雑誌の記事から携帯電話が消えているのだ!)、卵の中から小鳥を取り出してみせたりする。
いやホントすごいのだ。
昨日見ていた番組の中では、物理法則的にどう考えてもありえないというようなものも多々あった。例えば、トランプ当てのマジックをUSJでやっていたのだけど、その当て方がすごかった。スパイダーマンのごとくクモの糸みたいなものを指先から飛ばして目当てのカード当てるという趣向だったのだけど、そのクモの糸の動きがどう考えてもありえなかったのだ。だって、30mくらい離れた距離から、靴紐程度の太さの紐みたいなものを投げるのだけど、まるでそれが一本の棒であるかのように真っ直ぐにカードに向かうのである。重力に従って垂れてしまったりなんてこともなく、すーっとまっすぐに紐が伸びていくのである。カード当てもすごかったけど、それよりも何よりもあの紐がどうやって飛んでいたのかを僕は知りたい。
あるいは、またこれもカード当てなのだけど、ゲストに選んでもらったカードを含めた52枚すべてのカードを、スタジオに併設されていたプールに飛ばすわけです。すると、ゲストが選んだカードだけが数字を見える方を上にして沈み、あと残りすべてのカードが裏を向けて沈んでいくのである。これもどうなってるのかさっぱりわからない。だって確率論的に言えば、カードが裏表どっちを向いて沈むかなんてのは半々だろう。投げ飛ばし方に何かコツなんかがあったとしても、100%にまで高めることは無理だと思うのだ。あれも結局どうなっていたのか本当に不思議である。
しかし昨日見ていた中で一番よかったかなと思うのは、セロがタイだかどこだかの国の孤児院みたいなところを訪問していたものである。
その孤児院は日本人女性が運営しているところで、母親がHIVに感染していたために母子感染してしまった子供たちがいるところです。やはり差別や偏見なんかはあるらしく、同じ境遇を持つ者どうしでの交流しかないような感じなんだけど、それをセロがマジックを見せることで交流のきっかけみたいなものを作る、という感じのものでした。
また、その孤児院にはマジシャンを目指したいと思っている少年がいて、その少年に人前でマジックを披露させる、というようなこともやっていました。世界最高のマジシャンに直々にマジックを教えてもらえた少年は本当に喜んでいました。
マジックというのはありていに言ってしまえば嘘です。いかにして観客を騙すか、という意味では嘘と変わりはないでしょう。しかしマジックというのは人を楽しませることも勇気付けることも出来るわけです。
嘘をつくことは悪いことだと子供の頃に言われたような気がしますが、しかしそうなのかな、とか思ったりすることも結構あります。大人になって、まあ僕も半分だけ社会に出たりしているわけですけど、大人の社会ってのはやっぱり嘘ばっかだしな、とか思ったりします。嘘をつくことでいろんなことを円滑に進めていく、というのはすごく大事ですよね。
話を京極夏彦の「巷説」シリーズに移そうと思います。
このシリーズはかなり普通のミステリとは違う特徴を持っています。普通のミステリというのは、事件の部分に謎があってその謎を解決するために解決編があるわけですけど、「巷説」シリーズの場合、解決編に謎があるわけです。
つまりこういうことになります。又市というのがトラブル解決人のリーダーなんですけど、この又市がどこからかトラブルを仕入れてきます。トラブル自体は誰にでも理解できるし謎は別にありません。しかしそのトラブルは、凡そ普通の方法では解決できないだろうというような込み入っていてかつ複雑な事情を抱えているわけです。
そこで又市らは一芝居打つわけです。彼らのやり口は常に、「何らかの妖怪の仕業ということにしてしまおう」という発想に落ち着きます。つまり、人為的でない何らかの力(まあそれが妖怪なんですけど)が作用したというように見せかけて、解決困難に思えるトラブルを丸め込むのです。
これは要するに言ってしまえば嘘をついているということになります。ただこの嘘も非常にためになる嘘です。誰かを救うことになる嘘です。人間のやることではもはやにっちもさっちもいかなくなってしまったあらゆることを、妖怪の仕業だと嘘をつくことで解決するわけです。
こういう職業は現代にもありますね。例えば、正式な名前は知りませんが、「別れさせ屋」というように呼ばれる業界があります。
これは要するにどういうことかと言えば、依頼人がある人間関係を穏便に清算したい、というような時に、いろんな手段を講じてその別れを穏便にサポートしてくれる、というようなものです。
一番分かりやすいのは彼氏彼女と別れる、というような場合で、例えば依頼人が女性で彼氏と別れたいとします。すると「別れさせ屋」はその彼氏の好みを完璧にリサーチしてその好みに合う女性を彼氏に接近させます。で仲良くなって今付き合っている彼女と別れるように仕向けつつ、実際彼女と別れたらその工作員の女性も去っていく、という感じです。
また夫と離婚したいのだけど慰謝料を沢山もらいたい、というような依頼もあるみたいですね。そういう場合も同じような手段を取って不倫の証拠写真みたいなものを撮り、それを相手につきつけて離婚を迫る、みたいな形になるようです。
嘘というのはうまく付き合っていけばこれほど有用なものはありません。絶対にばれない、ということが最低条件ですけど、ばれない嘘をつくことが出来れば比較的人間関係は安泰と言えるでしょう。ただ嘘というのは使い方を間違えれば凶器にもなりえます。まさに諸刃の剣です。僕は比較的嘘をつくのが苦手で、なるべく嘘をつかなくてはいけない状況にならないように日々生きていこうと頑張っているわけですけど、でもまあそうはうまく行きませんよね。そういう時はなるべく頑張って、ばれない嘘をつこうと思っています。すぐばれる嘘だけはつかない、というのが僕のささやかなモットーだったりします。
そろそろ内容に入ろうと思います。
興信所を経営する宮本の元に、ある依頼が持ち込まれた。それは普通の興信所に依頼するような内容ではなく、あくまでも宮本に持ち込まれた依頼だった。
一年まえ、叔父に頼まれてその息子を大学に入学させてやったことがあった。別にコネがあったわけでもないし裏口入学を斡旋したということでもない。
宮本はセンター試験でのカンニングに協力をしたのだ。最新のハイテク機器を駆使して、また知り合いで現役東大生である加奈の力を借りて、不正の許されない試験という場で堂々とカンニングを成功させたのだ。依頼に来た男はどうやらその噂をどこからか聞き及んで来たらしい。昌史という、美術の腕はなかなかのものだが勉強はからきしできないという息子を東京芸大に入学させるために力を貸してはくれないか、と言ってきた。
宮本は悩んだ。あれは叔父の頼みだから、一回限りということで引き受けたのだ。カンニングはもちろん犯罪だ。ばれたら自分だけでなく加奈にまで迷惑が掛かる。
しかし最終的に宮本は引き受けることにした。
準備は万端、後は昌史が何かヘマをしさえしなければすべては完璧なはずだったのだが、何が起こったのか、宮本と加奈そして昌史の三人は警察に連行されることになってしまった。完璧だったはずのカンニングが発覚していたのだ。
新聞でも大きく騒がれ、宮本は興信所の仕事を畳まなくてはならず、加奈も大学を追われることになった。彼らは敗北を喫し、すべてを失った。
しかしそれからも宮本は諦めなかった。彼は独自に調査を続け、ついに自分を陥れた者への復讐のチャンスを見出した。彼は、あのカンニング事件に巻き込まれた者たちと一緒に、絶対に負けるはずのないいかさまポーカーで10億円を奪い取ろうという大胆な計画を立てたのだが…。
というような話です。
いや~、もうメチャクチャ面白かったです。五十嵐貴久ってなかなかすごい作家だと思いました。ちょっとこれからいろんな作品を読み漁ってみたいなと思わせる作家ですね。まだ2作しか読んだことはないんですけど、いろんな引き出しを持っていそうな作家です。ちょっと自分の中でプチブレークしそうな感じです。
ストーリーは、カンニングを計画して失敗する第一部、復讐への準備を進める第二部、そして復讐の場であるポーカーの第三部と三つに分けることが出来ます。
まず第一部のカンニングのところからしてなかなかうまいなと思いました。とにかく勉強が出来ないだけでなくいろんな面で馬鹿な昌史とクールで美人な加奈、そして機械に強い宮本という三人で完璧な計画を進めていくのに、何故かそれが発覚する、という感じなんだけど、段々と自分たちが嵌められたのだ、ということに気づくわけです。しかし自分たちを嵌めて何になるのか、ということが分からない。金が奪われたわけでもないし、加奈は大学を辞めることになったし宮本も興信所の仕事を追われたが、しかしそれで釣り合うとは思えないような大規模な仕掛けだった。誰が何のために、というところが謎として残ります。
そしてそれが明かされるのが第二部です。あのカンニング事件の裏にあった背景というのもまたうまく出来ていて、うまいなぁ、と思いました。なるほどなるほど、それならば彼らが狙われた理由も納得、という感じです。
かつ第二部では、具体的にどうやって復讐をするのか、という計画がスタートしていきます。まあこの計画の段階は少し中だるみな部分がないでもないですけど、まあそれはストーリー上仕方ないかなと思っています。ポーカーや機械の説明があったり、政治的なやり取りがあったりで、ストーリー上必要だけど僕にはあんまり興味のない部分が続いたりもしたけど、でも面白いことには変わりはないですね。
そして実際ポーカーを仕掛ける第三部ですけど、まあお見事という感じですね。このパートは、福本伸行の「カイジ」にも似た雰囲気を感じます。実際著者もカイジが好きみたいだし、影響を受けている部分はあるのでしょうね。僕もカイジはすごい漫画だと思います。
僕はポーカーについてはまったく知りませんけど、でもそれでも普通に楽しく読めます。彼らの敵が沢田という男なのだけど、この沢田という男がとにかく強敵なんですね。しかも賭け事に関してはとにかく天才的という男です。それに立ち向かう素人たち。図式としては圧倒的に不利なわけですが、宮本は勝てることを少しも疑っていません。
でラストまで来るわけですけど、いやはやお見事としかいいようがないですね。素晴らしく鮮やかな終わり方だと思いました。予想もつかない、とはまさにこのことでしょうね。いや~、これはお見事でした。
文庫で550Pもある長い作品ですけど、本当に一気に読めると思います。エンターテイメント作品を書かせたらこの作家はかなり一流かもしれません。とにかく掛け値なしに面白い作品です。コンゲームが好きな人には是非読んでもらいたい作品ですね。続編の構想もあるみたいです。お台場にカジノが出来たという設定で、そこで一千億円を掛けた勝負をする、という話らしいんですけど、でもお台場にカジノっていう話はそういえば松岡圭祐の「千里眼」シリーズの何かでもあったなぁ、なんて思いつつ。まあ何にしてもオススメですよ。是非読んでみてください。
五十嵐貴久「Fake」

Fake文庫
いや、ホントあれはすごい。
セロというのは今世界ナンバーワンと言ってもいいくらいのマジシャンであるらしい。ストリートで巧みに日本語を操りながら観客の度肝を抜くようなマジックを披露する。まさに見ていて驚くようなものばかりである。
例えば、目の前でうどんを親子丼に変える、イチゴシロップの乗ったカキ氷を宇治金時に変える、雑誌の携帯電話の記事から本物の携帯電話を取り出して見せるし(しかもその後雑誌の記事から携帯電話が消えているのだ!)、卵の中から小鳥を取り出してみせたりする。
いやホントすごいのだ。
昨日見ていた番組の中では、物理法則的にどう考えてもありえないというようなものも多々あった。例えば、トランプ当てのマジックをUSJでやっていたのだけど、その当て方がすごかった。スパイダーマンのごとくクモの糸みたいなものを指先から飛ばして目当てのカード当てるという趣向だったのだけど、そのクモの糸の動きがどう考えてもありえなかったのだ。だって、30mくらい離れた距離から、靴紐程度の太さの紐みたいなものを投げるのだけど、まるでそれが一本の棒であるかのように真っ直ぐにカードに向かうのである。重力に従って垂れてしまったりなんてこともなく、すーっとまっすぐに紐が伸びていくのである。カード当てもすごかったけど、それよりも何よりもあの紐がどうやって飛んでいたのかを僕は知りたい。
あるいは、またこれもカード当てなのだけど、ゲストに選んでもらったカードを含めた52枚すべてのカードを、スタジオに併設されていたプールに飛ばすわけです。すると、ゲストが選んだカードだけが数字を見える方を上にして沈み、あと残りすべてのカードが裏を向けて沈んでいくのである。これもどうなってるのかさっぱりわからない。だって確率論的に言えば、カードが裏表どっちを向いて沈むかなんてのは半々だろう。投げ飛ばし方に何かコツなんかがあったとしても、100%にまで高めることは無理だと思うのだ。あれも結局どうなっていたのか本当に不思議である。
しかし昨日見ていた中で一番よかったかなと思うのは、セロがタイだかどこだかの国の孤児院みたいなところを訪問していたものである。
その孤児院は日本人女性が運営しているところで、母親がHIVに感染していたために母子感染してしまった子供たちがいるところです。やはり差別や偏見なんかはあるらしく、同じ境遇を持つ者どうしでの交流しかないような感じなんだけど、それをセロがマジックを見せることで交流のきっかけみたいなものを作る、という感じのものでした。
また、その孤児院にはマジシャンを目指したいと思っている少年がいて、その少年に人前でマジックを披露させる、というようなこともやっていました。世界最高のマジシャンに直々にマジックを教えてもらえた少年は本当に喜んでいました。
マジックというのはありていに言ってしまえば嘘です。いかにして観客を騙すか、という意味では嘘と変わりはないでしょう。しかしマジックというのは人を楽しませることも勇気付けることも出来るわけです。
嘘をつくことは悪いことだと子供の頃に言われたような気がしますが、しかしそうなのかな、とか思ったりすることも結構あります。大人になって、まあ僕も半分だけ社会に出たりしているわけですけど、大人の社会ってのはやっぱり嘘ばっかだしな、とか思ったりします。嘘をつくことでいろんなことを円滑に進めていく、というのはすごく大事ですよね。
話を京極夏彦の「巷説」シリーズに移そうと思います。
このシリーズはかなり普通のミステリとは違う特徴を持っています。普通のミステリというのは、事件の部分に謎があってその謎を解決するために解決編があるわけですけど、「巷説」シリーズの場合、解決編に謎があるわけです。
つまりこういうことになります。又市というのがトラブル解決人のリーダーなんですけど、この又市がどこからかトラブルを仕入れてきます。トラブル自体は誰にでも理解できるし謎は別にありません。しかしそのトラブルは、凡そ普通の方法では解決できないだろうというような込み入っていてかつ複雑な事情を抱えているわけです。
そこで又市らは一芝居打つわけです。彼らのやり口は常に、「何らかの妖怪の仕業ということにしてしまおう」という発想に落ち着きます。つまり、人為的でない何らかの力(まあそれが妖怪なんですけど)が作用したというように見せかけて、解決困難に思えるトラブルを丸め込むのです。
これは要するに言ってしまえば嘘をついているということになります。ただこの嘘も非常にためになる嘘です。誰かを救うことになる嘘です。人間のやることではもはやにっちもさっちもいかなくなってしまったあらゆることを、妖怪の仕業だと嘘をつくことで解決するわけです。
こういう職業は現代にもありますね。例えば、正式な名前は知りませんが、「別れさせ屋」というように呼ばれる業界があります。
これは要するにどういうことかと言えば、依頼人がある人間関係を穏便に清算したい、というような時に、いろんな手段を講じてその別れを穏便にサポートしてくれる、というようなものです。
一番分かりやすいのは彼氏彼女と別れる、というような場合で、例えば依頼人が女性で彼氏と別れたいとします。すると「別れさせ屋」はその彼氏の好みを完璧にリサーチしてその好みに合う女性を彼氏に接近させます。で仲良くなって今付き合っている彼女と別れるように仕向けつつ、実際彼女と別れたらその工作員の女性も去っていく、という感じです。
また夫と離婚したいのだけど慰謝料を沢山もらいたい、というような依頼もあるみたいですね。そういう場合も同じような手段を取って不倫の証拠写真みたいなものを撮り、それを相手につきつけて離婚を迫る、みたいな形になるようです。
嘘というのはうまく付き合っていけばこれほど有用なものはありません。絶対にばれない、ということが最低条件ですけど、ばれない嘘をつくことが出来れば比較的人間関係は安泰と言えるでしょう。ただ嘘というのは使い方を間違えれば凶器にもなりえます。まさに諸刃の剣です。僕は比較的嘘をつくのが苦手で、なるべく嘘をつかなくてはいけない状況にならないように日々生きていこうと頑張っているわけですけど、でもまあそうはうまく行きませんよね。そういう時はなるべく頑張って、ばれない嘘をつこうと思っています。すぐばれる嘘だけはつかない、というのが僕のささやかなモットーだったりします。
そろそろ内容に入ろうと思います。
興信所を経営する宮本の元に、ある依頼が持ち込まれた。それは普通の興信所に依頼するような内容ではなく、あくまでも宮本に持ち込まれた依頼だった。
一年まえ、叔父に頼まれてその息子を大学に入学させてやったことがあった。別にコネがあったわけでもないし裏口入学を斡旋したということでもない。
宮本はセンター試験でのカンニングに協力をしたのだ。最新のハイテク機器を駆使して、また知り合いで現役東大生である加奈の力を借りて、不正の許されない試験という場で堂々とカンニングを成功させたのだ。依頼に来た男はどうやらその噂をどこからか聞き及んで来たらしい。昌史という、美術の腕はなかなかのものだが勉強はからきしできないという息子を東京芸大に入学させるために力を貸してはくれないか、と言ってきた。
宮本は悩んだ。あれは叔父の頼みだから、一回限りということで引き受けたのだ。カンニングはもちろん犯罪だ。ばれたら自分だけでなく加奈にまで迷惑が掛かる。
しかし最終的に宮本は引き受けることにした。
準備は万端、後は昌史が何かヘマをしさえしなければすべては完璧なはずだったのだが、何が起こったのか、宮本と加奈そして昌史の三人は警察に連行されることになってしまった。完璧だったはずのカンニングが発覚していたのだ。
新聞でも大きく騒がれ、宮本は興信所の仕事を畳まなくてはならず、加奈も大学を追われることになった。彼らは敗北を喫し、すべてを失った。
しかしそれからも宮本は諦めなかった。彼は独自に調査を続け、ついに自分を陥れた者への復讐のチャンスを見出した。彼は、あのカンニング事件に巻き込まれた者たちと一緒に、絶対に負けるはずのないいかさまポーカーで10億円を奪い取ろうという大胆な計画を立てたのだが…。
というような話です。
いや~、もうメチャクチャ面白かったです。五十嵐貴久ってなかなかすごい作家だと思いました。ちょっとこれからいろんな作品を読み漁ってみたいなと思わせる作家ですね。まだ2作しか読んだことはないんですけど、いろんな引き出しを持っていそうな作家です。ちょっと自分の中でプチブレークしそうな感じです。
ストーリーは、カンニングを計画して失敗する第一部、復讐への準備を進める第二部、そして復讐の場であるポーカーの第三部と三つに分けることが出来ます。
まず第一部のカンニングのところからしてなかなかうまいなと思いました。とにかく勉強が出来ないだけでなくいろんな面で馬鹿な昌史とクールで美人な加奈、そして機械に強い宮本という三人で完璧な計画を進めていくのに、何故かそれが発覚する、という感じなんだけど、段々と自分たちが嵌められたのだ、ということに気づくわけです。しかし自分たちを嵌めて何になるのか、ということが分からない。金が奪われたわけでもないし、加奈は大学を辞めることになったし宮本も興信所の仕事を追われたが、しかしそれで釣り合うとは思えないような大規模な仕掛けだった。誰が何のために、というところが謎として残ります。
そしてそれが明かされるのが第二部です。あのカンニング事件の裏にあった背景というのもまたうまく出来ていて、うまいなぁ、と思いました。なるほどなるほど、それならば彼らが狙われた理由も納得、という感じです。
かつ第二部では、具体的にどうやって復讐をするのか、という計画がスタートしていきます。まあこの計画の段階は少し中だるみな部分がないでもないですけど、まあそれはストーリー上仕方ないかなと思っています。ポーカーや機械の説明があったり、政治的なやり取りがあったりで、ストーリー上必要だけど僕にはあんまり興味のない部分が続いたりもしたけど、でも面白いことには変わりはないですね。
そして実際ポーカーを仕掛ける第三部ですけど、まあお見事という感じですね。このパートは、福本伸行の「カイジ」にも似た雰囲気を感じます。実際著者もカイジが好きみたいだし、影響を受けている部分はあるのでしょうね。僕もカイジはすごい漫画だと思います。
僕はポーカーについてはまったく知りませんけど、でもそれでも普通に楽しく読めます。彼らの敵が沢田という男なのだけど、この沢田という男がとにかく強敵なんですね。しかも賭け事に関してはとにかく天才的という男です。それに立ち向かう素人たち。図式としては圧倒的に不利なわけですが、宮本は勝てることを少しも疑っていません。
でラストまで来るわけですけど、いやはやお見事としかいいようがないですね。素晴らしく鮮やかな終わり方だと思いました。予想もつかない、とはまさにこのことでしょうね。いや~、これはお見事でした。
文庫で550Pもある長い作品ですけど、本当に一気に読めると思います。エンターテイメント作品を書かせたらこの作家はかなり一流かもしれません。とにかく掛け値なしに面白い作品です。コンゲームが好きな人には是非読んでもらいたい作品ですね。続編の構想もあるみたいです。お台場にカジノが出来たという設定で、そこで一千億円を掛けた勝負をする、という話らしいんですけど、でもお台場にカジノっていう話はそういえば松岡圭祐の「千里眼」シリーズの何かでもあったなぁ、なんて思いつつ。まあ何にしてもオススメですよ。是非読んでみてください。
五十嵐貴久「Fake」

Fake文庫


