株式仲買人のチャールズ・ストリックランドは妻子を捨ててパリへ出奔。作家の「私」は、ストリックランドを探し出して家へ戻るよう説得してほしいとストリックランド夫人に頼まれた。

若い女と駆け落ちしたと噂されるストリックランドだが、真相は大きく異なっていた。

画家ゴーギャンをモデルとしたモームの代表作。


月と六ペンス (光文社古典新訳文庫 Aモ 1-1)月と六ペンス
(光文社古典新訳文庫 Aモ 1-1)

(2008/06/12)
モーム

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評価=☆☆☆☆☆  (5点満点)


土屋政雄さんの新訳です。

学生時代に他のかたの訳で読みましたが、「なんだか有名な画家をモデルにした小説」ぐらいの薄ーい記憶しかなくて、ほとんど再読という気がしませんでした……。恐縮です。でも本当に面白かったですよ。



ストリックランドは40歳。夫人は彼が絵を描いていることを知らなかったし、彼がパリへ行ったのは女のせいだと思い込んでいました。

ところが彼の頭にあるのは絵を描くことだけ。それ以外はどうでもいい。妻子を思いやることもありません。パリへ行っても将来の見通しはありません。

昔から絵が好きで、パリへ行く前の1年間は夜間の絵画教室へ通ったといいますが、それだけでは妻子を捨てるまでには至らないはず。

彼に「パリで画家になろう」と決意させたものは一体なんだったのでしょう。そのへんが明確に言葉にされていない分、かえって彼の芸術への欲求の強さが感じられるようです。

ストリックランドの中には芸術への欲求がブラックホールみたいな形で存在していて、彼を慕う女たちや、彼の絵のよさをわかってくれる友人(ストリックランドのほうは「友人」だと思っていない)が、その中へどんどん吸い込まれていきます。

「少年老い易く学成り難し」と申します。少年でも老い易いのに、40歳で芸術にめざめたのは、やはり遅いと言うしかない。そして何歳であろうと、一度めざめてしまったら何を犠牲にしても突っ走るだけです。犠牲になった人々にとっては、たまったものではありませんが……。

せめて芸術が人間の一生のうちに突き詰められる大きさであればいいのに。でもその程度の大きさでは芸術のほうが収まるのを嫌うでしょうか。


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