TOP>た行

2012年01月29日

「11(eleven)」

 

物語はさまざまでも、締めの言葉はいつも同じだった。幸せに暮らしました、だとか、いつまでも悲しみました、といった結末のあと、彼は必ずこう言い足すのだった。
「でも私には何もくれない」
 それを聞くたび、ノリコは吹きだしそうになった。

「11(eleven)」津原泰水著(河出書房新社) ISBN: 9784309020471

2011年の各種ミステリベストで話題になった1冊。ミステリというより、奇妙な味わいの11編を収録した短編集だ。

設定、雰囲気がきちんとあって、それが1作ごとに全く違う。ぞっとするホラー、軽快な青春小説、宇宙的スケールのSFファンタジーなどなど。引き出しの多さ、凝縮した作りが練達の職人を感じさせる。あっという間にそれぞれの物語世界に引き込んで、あっという間に終わってぽんっと投げ出す感じ、巧いなあ。
あとをひくような強烈さではないが、印象的な場面、フレーズがいろいろあって、たとえば「でも私には何もくれない」。琥珀磨きをしている女が単調な作業の間、同僚がイタリア人の祖母から聞いたという昔話の数々に耳を傾けるのだけど、いつもその最後につぶやかれるセリフだ。含蓄があるようでいて、とぼけている。

話題作とあってブロガーさんの言及が多いけれど、お気に入りが見事にばらばら。そこがまた面白い。個人的には夫婦が鏡越しに会話する「テルミン嬢」に、人と人の繋がりの困難と不思議を感じた。(2012・1)

2011年10月28日

「ジェノサイド」高野和明

ジェノサイド
ジェノサイド
  • 発売元: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 価格: ¥ 1,890
  • 発売日: 2011/03/30
  • 売上ランキング: 434



民間軍事会社の傭兵のイエーガー、不治の病の幼い息子の医療費を稼ぐため、
仕事内容がなかなか明かされない謎のミッションに参加することに。
そこには4人の、癖のある傭兵がいて、彼らとコンゴにいくらしい。

一方、日本では、薬学部の大学院生である古賀研人が、
父の葬儀に参列していた。父は何か息子に託して死んでいったらしいことが、
徐々にわかってくるにつれ、いつしか研人は追われる身になる・・・

そしてホワイトハウスでは、アフリカ奥地にある脅威が発生し、
とある計画がたてられていた・・・

3つの場所で起こるそれぞれの出来事が、徐々につながっていき、
のちに彼らが出会うのは人類の未来にかかわる「脅威」・・・。

続きを読む >>

2011年10月23日

ジェノサイド

よくぞここまでたどり着いた。奇妙な実験室を見せられて驚いているだろうが、本題はここからだ。私は、訳あって個人的な研究を抱えている。私が姿を消している間、その研究をお前に引き継いでもらいたい。

「ジェノサイド」高野和明著(角川書店) ISBN: 9784048741835

東京郊外に住む大学院生・研人は、急死した父が遺したメールに導かれ、とうてい実現不可能に思える創薬実験に取り組む羽目になる。一方、民間軍事会社の傭兵・イエーガーは難病に苦しむ息子を救おうと、危険な極秘任務を引き受けてアフリカへ飛ぶ。地理的にも境遇から見ても遠くかけ離れた2人の運命を、驚くべき陰謀が結びつける。

本好きブロガーさんらの間で評判の大作エンタテインメントを読んだ。傭兵の装備やら、創薬の手順やら、とにかく情報がぎっしり詰まっていて、正直、滑り出しは苦手な印象があった。知識がない分野の情報は、どれだけ本当らしいか見当がつかないから。
しかし東京、アフリカ、それに世界情勢の裏で糸を引くワシントンを行き来して、場面が頻繁に転換するので、つられてテンポ良く読み進むうち、200ページあたりから地球規模の壮大な陰謀の背景が見えてきて、その後はもう、ページを繰る手がとまらない。終わってみれば、590ページをほぼ一気読み。

コンゴ民主共和国の密林で、残虐きわまりない反政府軍に囲まれながらの脱出行が凄い。危機また危機の息詰まる展開。目を覆う凄惨なシーンが続くけれど、その凄惨さが謎解きのキーになっているところが巧い。長い人類の歴史のなかで、人はなぜ殺戮をやめられないのか? ちょっと「虐殺器官」(伊藤計劃著)を思い出した。

なんといっても、人類の危機の設定に意表をつかれる。温暖化による大災害とか惑星衝突とか、いろいろ聞いたことがあるけれど、こうくるとはなあ! もちろん先行するイメージはあるのだろうけど。
設定がいわばSFなので、終盤に至ってアクションが、唐突に何でもありのレベルに飛躍しちゃう感じは否めない。とはいえ、思いっきり大風呂敷のスケール感、そこまで風呂敷を広げる想像力の強靱さが爽快(たまたま素人向け生物学の本と並行して読んで、自分の頭の中で虚実が入り乱れちゃったのが難でしたが)。

愚かな衝突や殺戮をいっこうに終わらせられず、それによってエスタブリッシュメントとされる人々が利益を得る構図さえある、世界の現実。一方で、医療や救命に全身全霊をかけて取り組む人間もいる。主人公たちが示す精神の明るさ、それぞれの親子の情愛が一筋の希望を感じさせるあたり、ハリウッドっぽいけれどお上手。山田風太郎賞受賞。(2011年10月)

2011年08月25日

「11」津原泰水

11 eleven
11 eleven
  • 発売元: 河出書房新社
  • 価格: ¥ 1,785
  • 発売日: 2011/06/16
  • 売上ランキング: 9258


大森望さん編集のSF短編集「NOVA」を5巻まで買ってはまだ読んでいないのですが、
その中のNOVA2に収録されている津原氏の「五色の舟」がどうやら凄いらしい、と
ネットの噂で読んでいて、そしたらその作品も収録されている短編集が
新たに出るというじゃないか。
オール津原さんというのはでかい、と思って早速読みました。

すばらしかった・・・・。一作品だけのすばらしさ云々は通り越して、
個々の短編が全て凄くて、短編集としてのまとまりも装丁も全部込みですばらしい。
どう「凄い」かというと、全部が鳥肌を立たせるくらいの何かを持っているところ。
鳥肌が立つほどの恐怖、感動、美しさ、おぞましさ・・・。
そして一気に作品世界に放り込まれる魔力を持っていて、
いきなり「五色の舟」から異世界へ。そしていろんな異世界を次々と巡っているような、
そんな感覚でした。

続きを読む >>

2011年08月10日

「残像に口紅を」筒井康隆

残像に口紅を (中公文庫)
残像に口紅を (中公文庫)
  • 発売元: 中央公論社
  • 価格: ¥ 780
  • 発売日: 1995/04
  • 売上ランキング: 12014



昔読んだんですが、本棚で見つけて、急にむっちゃ再読したくなって、
他に読む本があったのもいったんやめて、読んでみました。
なんか変な小説が読みたかった時期だったんでしょうね。
タイトルだけ見たらなんだかかっこいい恋愛小説みたいですけど、これ、とんでもない本です。

続きを読む >>

2011年05月22日

「モーダルな事象」

溝口? 誰だ、そいつは? 桑幸が不審の表情を浮かべると、男は自分だけで大きくひとつ頷いてみせた。
「溝口俊平には未発表の作品があったんです」

「モーダルな事象」奥泉光著(文藝春秋) ISBN: 9784163239705

近代文学を専門とする桑潟幸一助教授、通称桑幸(くわこう)。大阪の短大でくすぶっていた彼のもとへある日、無名の児童文学作家・溝口俊平の遺稿が持ち込まれる。太宰治の友人だったという以外、さしたる価値もないと思っていたのに、遺稿を出版するや予想に反して大ヒットとなる一方、関係する編集者が事件に巻き込まれ…。

500ページを超えるボリュームに恐れをなして、ずうっと積んでいた小説を読んだ。手にとってみれば心配は無用、ずんずん読み進みました。

物語が大きく3つのパートに分かれていて、細かく転換しながら進んでいくからテンポがいいし、文章にも独特のリズムがある。パートの1つ目は桑幸の日常で、これが笑っちゃう。学者としてなかなか日があたらず、恋愛もうまくいかずに、相当ひがみっぽくなっている。小市民的な言動に、現代日本の文芸出版事情なども透けてみえ、なんだか自虐的。昨年読んだ「シューマンの指」と同じ作家とは思えないほどのユーモアぶりです。
もう1つは、溝口俊平の遺稿を巡って勃発した事件に関心を持つフリーライター北川アキの謎解き行。北海道、東京の郊外、大阪、京都、そして瀬戸内の孤島へと、このパートだけでも2時間ドラマたっぷり4本分ぐらいのミステリーが詰まっている感じ。ジャズ歌手でもあり、おおらかな性格のアキと、素人探偵のパートナーになる別れた夫で知的な変人・諸橋倫敦との、つかず離れずの名コンビぶりも楽しい。キャラクターが魅力的です。
しかし、面白楽しいだけで終わらないのが、侮れないところ。3つ目のパートがくせもので、事件をきっかけに桑幸を悩まし始める伝奇的な悪夢が綴られる。戦中、瀬戸内の孤島で行われていた謎めいた実験、消えた子供たち、外国からもたらされた希少なコインをめぐるオカルト話……。ダークファンタジーのイメージが、物語に陰影をつける。

伏線に次ぐ伏線、終盤に至って3つのパートが見事に重なり合い、ミステリとしてきっちり決着がつく。さらに、おまけみたいに歴史の書き換えめいたエピソードがくっついていて、口をあんぐり。遊び心満載の筋書きを堪能した後、小説というもの、その膨大な蓄積に対するちょっと屈折した愛情が、じわっと染みます。さすがのサービス精神ですね。巻末にスペシャル・インタヴュー、作品リスト付き。(2011・5)

2010年10月04日

近況

 グリムスが枯れかかっている。

 9月末に松山、道後温泉に旅行に行きました。
松山空港には、司馬遼太郎『坂の上の雲』原作のNHKの同名ドラマの幟が沢山。ドラマは3か年で3部構成で放送。松山、道後、坂の上の雲ミュージアムなど見学。時代小説は苦手だけど、旅館に文庫の1巻があったので少し読んでみたら、意外に情景が浮かびやすく、文章も綺麗。ドラマは録画してあるので、原作と並行して楽しみたい。
 四国は初めて訪れた場所。ジャコ、じゃこ天、お刺身は鯖と太刀魚が美味しかった。天候にも恵まれて、また行きたいと思った。
 多忙の時は突発事項も多く、父が緊急入院。検査結果待ち。
 
 体験したことは記事にしようと思っていますが、追いつかない。
と、近況報告でした。

坂の上の雲公式サイト
http://www.nhk.or.jp/matsuyama/sakanoue/

坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎

文藝春秋 1999-01
売り上げランキング : 1828

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


blogram投票ボタン

2010年10月04日

近況

 グリムスが枯れかかっている。

 9月末に松山、道後温泉に旅行に行きました。
松山空港には、司馬遼太郎『坂の上の雲』原作のNHKの同名ドラマの幟が沢山。ドラマは3か年で3部構成で放送。松山、道後、坂の上の雲ミュージアムなど見学。時代小説は苦手だけど、旅館に文庫の1巻があったので少し読んでみたら、意外に情景が浮かびやすく、文章も綺麗。ドラマは録画してあるので、原作と並行して楽しみたい。
 四国は初めて訪れた場所。ジャコ、じゃこ天、お刺身は鯖と太刀魚が美味しかった。天候にも恵まれて、また行きたいと思った。
 多忙の時は突発事項も多く、父が緊急入院。検査結果待ち。
 
 体験したことは記事にしようと思っていますが、追いつかない。
と、近況報告でした。

坂の上の雲公式サイト
http://www.nhk.or.jp/matsuyama/sakanoue/

坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎

文藝春秋 1999-01
売り上げランキング : 1828

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


blogram投票ボタン

2010年07月23日

「小さいおうち」

 東京でオリンピックが開かれたのは、昭和十五年ではなくて、三十九年だと、いまでは誰もが知っている。
 けれど、昭和十年には、五年後には東京大会が開かれると、それこそ誰もが思っていた。

「小さいおうち」中島京子著(文藝春秋) ISBN: 9784163292304

昭和初期の東京郊外。赤い三角屋根の文化住宅で、女中として過ごしたタキの回想。

久々に、もっていかれた。はらはらドキドキするとか、作家が提示する世界に圧倒されるとかとは違う。気持ちを丸ごと、ぐんともっていかれて、夢中になって読んだ。

物語の大半を占める、タキの手記が秀逸。270ページを費やして生き生きと、平井家での暮らしを描く。たった2畳の板の間だけど、小さいおうちでタキに与えられた部屋は、田舎からひとり出てきた10代の少女にとって、大切な自分の居場所だ。ささやかな誇りをもって家事を取り仕切り、体の弱いぼっちゃんの世話を焼き、たまには京橋のアラスカや日本橋三越での食事にお相伴する。
過不足のないディテールと、散りばめられた愛らしいユーモアに引き込まれ、読む者はやがて物語のなかの空気を、一緒に呼吸し始める。まるでジャック・フィニイの「ふりだしに戻る」だ。

二十代の若奥さま、時子のなんと輝いていることか。美しいものが好き。といっても、大変な贅沢をするのではない。ちょっとした、きらきらしたものを愛おしむ。子どもっぽく駄々をこねたりもするけれど、その気性にはきっぱりした面がある。甘やかな、若さの記憶。

物語にまんまとどっぷり浸かってしまったから、ラスト50ページほどの「最終章」の展開には本当に驚き、そして切ない気持ちを味わった。見事な構成力。人には長い長い時間をかけなければ、気付けないことがある。時代や社会がどこへ向かっているのかも、自分がとった行動のわけも、そのときの気持ちさえも。

古い雑誌のような装丁も美しい。直木賞受賞。(2010・7)

2010年04月15日

「もいちどあなたにあいたいな」新井素子

もいちどあなたにあいたいな
もいちどあなたにあいたいな
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 1,575
  • 発売日: 2010/01
  • 売上ランキング: 7392
  • おすすめ度 3.5


新井素子さんの本の感想を書くのはもしかしたら初めてかもだけど、
かなり読んでました。コバルト文庫の「星を行く船」シリーズとか、いろいろ。
私のSFの読みはじめは、筒井康隆か、新井素子かというくらい。
タイプは全然違うけど。

一番直近では、だいぶ前に、確かくまのぬいぐるみが出てくるホラー、
「くますけと一緒に」を読んだっきりだったな。と思う。
(確かそんなタイトルと思うけど)
コバルト文庫時代とほとんど変わらない「あたし」文体で、
かなり怖いホラーだったように記憶している。
だから今回も、かなり怖いホラーを期待して読んだ。
ちょっと思ってたのと違った。

【広告】

サイト内検索

メンバー紹介

このサイトに自分のブログを載せたい!
(ブログの登録は無料です。)


アーカイブ