今日は万引きの話でも書こうかなと思います。
先日夜、恐らく万引きをされたんだろうな、ということがありました。文庫本10冊ぐらいを。
僕が文庫の売場でいろいろ仕事をしている時、左手に5冊ぐらい文庫本を抱えて、右手で棚から本を出し入れして吟味している女性のお客さんを見かけました。僕は普段から、文庫や新書をたくさん持っているお客さんが目に入ると、ウシシという感じで嬉しくなるので、どうしても余計に注目してしまいます。
そのお客さんは何だか棚を真剣にチェックしていて、嬉しくなりました。左手にはどんどんと文庫本が増えていって、売上的にもよろしいじゃないですか、なんて思いながらちらちら見ていました。
で、ちょっと話は変わって、僕は普段からよくレジに足を運んで、そこにあるスリップをチェックするようにしています。スリップというのは本の間に挟んであるあの紙で、レジで大抵抜かれると思います。その抜いたスリップを見て、なるほどこんな本が売れたのか、こんなに売れたのか、これは平積みになってるけど棚から売れたな、みたいなチェックをしています。
で、その女性のお客さんを見かけてから度々レジでスリップをチェックするんですけど、スリップが全然増えないんです(その日は確か雨が降っていて、そもそもあんまり本が売れてなかった)。その度に、なるほどまだ売場にいるのかと思ってチェックをしていました。ただ大分時間が経っても一向にスリップが増えないんで、これはちょっとおかしいなと思うようになりました。
それから、店内をグルリと回って見てみるんだけど、そのお客さんの姿はどうしても見当たりません。ちゃんと隅から隅までチェックしたわけでもないので、まあまだどこかにいるのかもしれないとか思っていたんですけど、その後も売れた形跡がない。
で、初めてその女性のお客さんを目にした時から1時間ぐらいが経過して、どう考えても売場にそのお客さんの姿がないことを確認して、あぁ万引きされたのだろう、と思いました。
ただこれだけだと、お客さんが結局本を買わずに売場に戻しただけ、という可能性が排除できません。ただそうではないんですね。
文庫売場にいる時に、お客さんが左手に持っていた文庫の内一冊だけタイトルが見えたんです。それが、中公文庫から出ている、ニーチェの「ツァラトゥストラ」です。そんな本買うんだ、と思ったんではっきり覚えています。
で、1時間ぐらい経ったあと、「ツァラトゥストラ」は売場に戻っていなかったし、売上のデータも立っていませんでした。なので恐らく万引きだろうなと思います。
しかし本当に万引きだとすれば、その女性のお客さんは間違いなく常習だと思うし、慣れているなと思いました。
何故なら、僕と一度も目が合わなかったからです。
これから万引きをしようとしている人は、必ず周りのスタッフのことをチェックしてしまうはずだと思うんです。見られているかもしれない、何か不審に思われているかもしれない、という意識は常にあるはずで、その不安を解消するために周りのスタッフの目を意識せざるおえないと思うんです。
でも、僕はその女性のお客さんのことをかなり注目してい見ていたのに(万引きだと疑っていたわけではなく、たくさん文庫を抱えているのにさらに何を買うんだろうという興味で)、一度も僕の存在を確認したりしなかったんです。僕のことがまったく目に入らなかった、ということは考えられないので、意識的に見ないようにしていたんだろう、と思います。そんな風に冷静に考えられる人は、常習でしょう。
しかし万引きはホントに悔しい。そりゃあ僕だって、生涯において万引きなんて一度もしたことがない、なんてことは言えないけど、売る立場になってみるとすごく残念だなと思います。でも万引きを捕まえるのもなかなか難しい。今本の中にICチップみたいなものを入れる計画なんかが進行中(?)みたいだけど、それが実現するとしても書店に行きわたるのにはまだまだ時間がかかることでしょう。どうしたらいいものか、難しいなと思います。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、前回感想を書いた「「1回きりのお客様」を~」という本と一緒に買ったものです。売上を伸ばす参考になればなぁと思って買ってみました。
著者はもともと、大手の印刷会社に勤めるサラリーマンで、そこで広告の基礎を学んだとか。しかしそれは、資金が潤沢にある大手企業との間でのやり方を学んだにすぎなかったわけです。いろいろあって独立し、小さなお店を中心に仕事をするようになり、いかにこれまでの自分が間違っていたのか悟り、それから資金の少ない小さなお店でいかにして売上を伸ばしていくかということを考え始めます。そこで行きついたのが、「0円販促」。本当にただで始められるか、あるいは初期投資は多少必要だけどその後お金を掛けずに維持できる方法というのを中心に様々な事例を集めていった結果、「0円販促」には5つの法則があることに気づいたようで、それを本書にまとめた、というわけです。
例によって、書店ではなかなか応用できそうにないものもたくさんありますが、とりあえず内容を紹介するためにその5つの法則とやらを書いて説明してみます。
「インターネット販促」
著者は商売をしていく上で最も重要な要素に、顧客リストを選択しています。とにかく、顧客リストのあるなしによって、商売というのはガラリと変わっていく。
で、とにかくメールを送ったりHPを作ったりする、というのが第一の法則。とにかく、インターネットというのは限りなく無料に近いツールなわけで、それを使わない手はない、という話です。
「集客が半永久的に継続するツール」
これは、店の外に置く看板や、あるいは店内にちょっとした特殊なスペースを設けるとか、そういう話です。いかに興味を惹く看板を設置するかという例や、カーショップにバーベキュースペースを併設して売上を伸ばした事例、スーパーに小規模な図書館を設置したりという例が載っています。
僕が一番面白いと思ったのは、冒頭に載っていたある居酒屋の例です。そこでは、お客さんからの意見なんかを募集するノートが置かれているんだけど、それにはすべて店長からのコメントが返ってくる。「生協の白石さん」みたいな感じでしょうかね。でしかも、「鳥皮をほめてくれたから鳥皮5本サービス券」と書かれた手書きのクーポン券みたいなものが返信のところに貼ってある。それは、○○さん専用と書いてあるもので、そのコメントをくれた人にお礼としてあげるクーポンなわけです。これは面白いですね。交換日記みたいな感じでしょう。こういう居酒屋があったら、ちょっと行ってみたいなと思います。
「店の個性を打ち出す」
ここで最も重要なポイントは、その店を一言で表すことが出来るようなイメージ作りです。何でも揃っている、というイメージでは弱い。そうではなくて、とにかく何でもいいからその店のイメージを植え付ける。魚料理ならこことか、あそこの店長は料理中にやるジャグリングがスゴイとか、とにかく何でもいい。その店を一言で表現できるようなイメージを作り出す、ということです。
ここの例で一番分かりやすかったのは、ドミノピザの話でした。これはマーケティングの世界では有名な話のようですが、「30分を超えたら50セント引き」というキャッチコピーを考えたんだそうです。これが今でもピザ屋で通用している、「30分でお届」というルーツなんだそうです。当時、ドミノピザよりも美味しいピザ屋はたくさんあったそうですが、ドミノピザはこのキャッチフレーズ一つだけで世界的に有名なピザ屋になったというわけです。
他にもこんな例がありました。ある自転車店で、「半永久的に修理代無料」と打ち出したところ大成功したようです。現実には、1台の自転車を5年も乗れば買い換えるらしいんで、半永久的に修理代を無料にしても問題はないらしいです。それを、店のキャッチコピーとして大々的に打ち出すだけで大成功。
こういう、店の特色やイメージなんかを分かりやすい一言で表現することで、消費者のイメージ喚起力を高め、よりその店を強く印象付ける、というような話。
「とにかく考える」
これはまあ漠然とした話ですが、とにかく考えることが大事という話です。著者は今作業はすべて他のスタッフにやらせ考えることだけに専念しているようですが、どれだけ忙しくても毎日最低一時間は考える時間を作るようにと書いています。
この項では特に、他業界での成功例を広く集め、それをいかにして自店に活かすのか、という部分を考えるといいですよ、という話をしています。
例えばこんな例が載っています。デジカメの台頭により売り上げを大幅に落としていたある写真店が、こんなサービスを始めました。それは、15分でプロにメイクをしてもらい、写真撮影してもらうというものです。
これは、女性のことを観察し続けた結果生まれたアイデアなんだそうです。
世の中の女性は、30分以内で昼食を済ませる。じゃあ休み時間の残りは一体何をしているのか。
それが、化粧直しなんだとか。
15分でプロにメイクをしてもらい写真撮影をするというのは、昼休みの残り30分で行けるし、しかもメイクも直すことが出来るという、女性にはぴったりのサービスだったわけです。観察し、考え続けた結果、こういうサービスが生まれたわけです。
しかもその写真店のサービスを知ったある美容院では、30分で出来るシャンプー+メイクだけの低価格サービスを始め、それによってかなりの集客に成功したようです。
これは先ほどの写真店でのメリットに加え、敷居の高い美容院のサービスを体験的に受けられるというメリットもあります。いきなり髪を切ってもらうには不安があるけど、シャンプーとメイク直しだったら抵抗は少ない。それでお店の雰囲気なんかを感じてもらえれば、髪を切ってもらうという抵抗が減るということです。
そういう風に、他業界での成功例をいかにして活かすかということも考え続けるといいわけです。
「口コミ」
ここでは、口コミを発生させる確率をいかに高めるか、という話が書かれています。口コミというのは自然発生的に生まれるものだけど、それでもある程度は店の努力によって確率を上げることが出来る。
まず重要な点は、お客さんが他人にその店を伝える時、何を伝えるのかということです。それは、『スゴイこと』です。それがどんなものでもいいです。とにかく、他の店ではありえない特徴、ありえないサービス、ありえないスタッフ、とにかくそういう、人に話したくなるような『スゴイこと』を何でもいいから作ることが大事です。
本書の例にあったわけではありませんが、昔僕は何かの本で、屋上に観覧車がある本屋の話を読んだことがあります。その本屋がどんな品揃えで何が充実しているのかということをまったく知らなくても、屋上に観覧車があるという事実だけでその話を人にしたくなりますよね?あるいは、僕の知っている本屋で日本で初めて(世界でも初めてでしょうが)、「書店プロレス」なるものが開催されました。文字通り、書店の売場でプロレスをする、という企画です。これは記者会見をするくらいの前評判を呼んだし、実際当日ものすごい数のお客さんが来たそうです。そういう『スゴイこと』をまず用意し、それを出来る限り積極的に発信しないといけません。
第二段階は、その『スゴイこと』を思い出させるツール作りです。財布に入るような大きさの紙にその『スゴイこと』を書いてお客さんに配るわけです。そうすうると、思い出してもらえる可能性が高まります。
そして第三段階では、他人に対して影響力のありそうな人、過去にあなたの店を紹介してくれた人、紹介を受けてお客さんになった人なんかに手紙を出し、より口コミが発生する可能性を高める、という話でした。
そして最終段階。ここでは、お客さんを感動させるということが重要になります。なんでもいいからお客さんを感動させる。そうすれば、お客さんはその店のファンになって、その店の良さを周りに伝えてくれる、ということになります。
でも、お客さんを感動させるなんてことがそう簡単に出来るのか。
そこに著者は、あるテクニックを見出しています。
それは、『お客さんが、自分自身をお客として認識していない状態の時にサービスをする』ということです。
具体例を挙げましょう。
ある焼肉屋は人気で、1時間待ちはざら。寒空の中待っていると、店員が七輪や暖かい飲み物を持って来てくれる。店の外に並んでいる時は、お客さんは自分のことをまだお客としては認識していません。そんな状態の時にサービスをしてもらえれば、それが感動体験になる、ということです。
この流れを意識すれば、口コミを発生させる可能性はかなり高まる、とそんな話でした。
インターネットとか看板とかっていうのはなかなかウチの店でやるのは難しいんだけど、イメージを明確な言葉で伝えるとか、口コミを発生させるみたいな話は頑張れば出来そうな気がします。
イメージを明確にするというのは、本屋だからこそうまくやろうと思えばやれるんじゃないかなと思います。例えば、「なんかいつも可笑しなフェアをやってる」とか、「スポーツ関連の本がものすごく充実してる」とか、そういう切り口は書店だったらいくらでも打ち出すことが出来ます。なので、そういうメインになるような部分をかなりきちんとやり、しかもそれをポスターやPOPなんかにして店のあちこちに貼りだす。そういうことをやれば、なるほどあの店はこうなんだな、というイメージを持ってもらえるんじゃないかなと思います。
『スゴイこと』をやって口コミを、という話もやろうと思えば何だって出来るでしょう。スタッフ全員が浴衣で仕事をするとか(まあこれはある書店員が書いた本の中に書いてあった実例ですけど)、クリスマスの日だけ店全体を超真剣に飾り付けするとか、バレンタインデーに本を買ってくれた人全員にレジでチロルチョコを配るとか、まあ何だって出来ますよね。そういう、売上に直接結びつくわけではない、でも人に話したくなるような『スゴイこと』をいろいろ考えてやってみれば、話題が広がっていくんじゃないかなと思います。
他業界の成功例というのも、今すぐ何かパッと思いつくようなことはないけど、活かせるようなものはいろいろとあるかもしれません。これまで僕は書店業界ばっかりに目を向けていろんな情報を収集していましたけど、これから他業界にもきちんと目を向けてみようかなと思います。まあなかなか難しいですけどね。
まあそんなわけで、具体的な例をたくさん盛り込みながら、「0円販促」を実現するための5つの法則が解説されています。どの話も、なるほどそれは面白そうだなと思える感じでした。お客さんからの意見ノートみたいなのは実際始めたら面白いかもしれません。お客さんから、『何か面白い本はないですか?』みたいなことを聞かれて答えるようなやりとりとか起こりそうですしね。まあ返答がなかなか大変ですけど。
いろんなヒントになるのではないかなと思います。サービス業をしている人は読んでみたら面白いと思います。
米満和彦「「0円販促」を成功させる5つの法則」
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