さて今日は感想を二つ書ける予定。まず一つ目。
今回は内容に合わせて、書店員として僕が出来ること出来ないことというのを書いてみようかなと思います。
まず僕はそもそも、書店だろうが何だろうが、仕事に関しては得手不得手がある。
得意なのは、一人で出来る仕事だ。事務的な仕事でも何かを考えるとか作り出すとかでもいい。とにかく、自分一人で進められることはものすごく得意だ。どうすれば効率よく仕事が出来るかを常に考えられるし、いろいろアイデアを試したりいろんな角度から検討したりということも出来る。一人で出来る仕事は滅茶苦茶得意だ。
また、同じぐらいの立場の人間同士で、僕が仕切ってやる仕事というのも割と得意だと思う。どうやって人を配置して何をさせれば効率がいいのか、どんな準備をしなくてはいけないのか、みたいなことを考えるのは割と出来るんじゃないかと思う。
ただ僕がとにかく苦手なのは、同じ立場ではない人間と関わらなくてはならない仕事だ。とにかくこれは、仕事だと分かっていながら、なかなか出来ない。
さて具体的な話をしようかと思う。
まず、担当の仕事は基本的に一人で出来る。分担してもらう部分もあるけど、それも僕がスタッフを仕切って出来ることだから全然大丈夫。POPを描いてもらうとか、何か作ってもらうとか、そういうようなことも大丈夫。担当の仕事以外の部分でも、スタッフに指示を出してやってもらうことは全然出来る。
接客は、先ほど挙げた『同じ立場ではない人間と関わる』仕事なんだけど、これが案外大丈夫だったりする。やっぱり相手が本を買ってくれるからかなぁ。他の接客業だとこうはいかないかもしれない。とりあえず、本屋での基本的な接客も全然問題ない。
ただ、僕に出来ることってこれぐらいだなぁ、と思う。僕は自分では割と一生懸命仕事をしているつもりだし、売上も上げていると思っているんだけど、やっぱり大した書店員にはなれないなぁ、と時々思うのだ。
出来ないことを挙げるといろいろ悲しくなってくる。
まず、出版社の人と話したり親しくなったりというのがもう全然だめ。人見知りだからなんだけど、これは大変。出版社の営業の人で、店に来てくれる人とは普通に対応できる。けど問題は、自分の方からアプローチすること。出版社の人と仲良くなって、いろんな情報を仕入れたり優先して出庫してもらったり出来るようになれればいいと思うんだけど、なかなかそういうことが出来ない。なんというか、環境的に割と話題作なんかでも普通に発注すればそこそこ在庫を確保できてしまうので、そこまでガツガツ出版社の人に食いついていこうという発想にならないということもある。
また、イベントなんかを企画したりあるいはそこで盛り上げたりすることが出来ない。ウチの店はそんなイベントをやるような店では全然ないけど、でももしイベントをたくさんやるような店だったら、僕なんか全然使い物にならないと思う。たぶん、事前の準備だけは喜々として手伝うと思うんだけど、実際イベント当日は動けないみたいな人間です。今から感想を書く本の著者(書店員)は、イベントをかなりやる書店グループにいるみたいなんだけど、楽しそうだとは思うけど、そういう店ではなかなかうまく出来ないかもしれない。絵本の読み聞かせみたいなことでも、たぶん無理だと思う。
また、普通の接客は出来るけど、お客さんの個人データを頭に入れるというのは本当に出来ない。今日も、あるお客さんに本の問い合わせを受けたんだけど、その人をどこかで見たことあるなぁ、と思っていた。そしたら、雑誌の定期購読をしてくれている人だった。もちろん、顔を見ればすぐ名前が出てくる定期のお客さんもいるけど、どうもすぐ忘れてしまう。本書の中では、「○○さん、△△の本が入ったから取り置いておきましたよ」なんて会話が普通に出来る書店が描かれている。「そんなの普通に出来るでしょ」と思われる書店員は多いかもしれないけど、僕はもう記憶力が昆虫並で、特に人間に関する情報はまったく覚えられないのだ。店に来てくれる出版社の営業さんで、きちんと名前を覚えているのは2割弱ぐらいじゃないかな…。
あとはPOPが描けない。字が下手とか絵が描けないとかはもうしょうがないけど、色のセンスとかちょっとした飾りや枠組みなんかも全然うまく書けないので、諦めた。それでも昔はちょくちょく自分で書いてたけど、今はもう完全に絵のうまいスタッフにやってもらっている。どうもウチの店には絵のうまいスタッフが多いのだ。文章だけ考えて、後は何となくの雰囲気を伝えるとPOPを作ってくれる。非常に助かるけど、自分で描けないというのはいかんなぁと思う。
他にもきっと出来ないことはたくさんあると思うんだけど、やっぱり僕はカリスマ書店員にはなれないなぁと思うのだ。残念。まあそれでも、自分の出来る範囲で頑張って売上を伸ばしていこうとは思っています。
自分でも今日の文章はちょっとよくわからない感じになったなぁとか思うけど、まあとりあえず内容に入ろうと思います。
本書は、尾道を中心に広島県に二十店舗以上を展開する啓文社という書店グループで働く書店員が、WEB本の雑誌というサイトで連載を続けていたものが書籍化したものです。
著者の児玉さんは、現在は本部でチェーンの一括仕入れ窓口を担当している。書店の現場にいない書店員なのだ。基本的に書店というのは、各店の担当者が発注や返品の権限を持っている。僕も、文庫と新書に関しては、すべて発注するものを決め、返品するものを決めている。しかし、モノによってはチェーン全体分をとりあえず本部で発注し、そこから各点に分けるというやり方が必要となるものがある。なかなか各店では確保できないベストセラーやある店舗での売上はいいが他では注目されていないという本がそれに当たる。そういうものをデータを見ながら情報を得、チェーンの一括仕入れをしているのだ。
児玉さんは新入社員として入社後、60坪の書店からスタートし、突如500坪の出店を任され、それ以降様々な場所で馬車馬のように働いた。職人と呼ぶに相応しい、昔堅気の先輩社員に揉まれながら成長していった。
しかしある時病魔が襲う。脊髄の中に悪性のリンパ腫瘍が見つかり、それを取り除く手術をした後、下半身麻痺となった。その後何度か再発するも、懸命なリハビリを繰り返し、また啓文社の社長の好意もあり(著者のために本社をバリアフリーに改築したらし)、元の職場に復帰することが出来たのだ。
そんな波乱万丈な書店人生を送る著者が、新人時代から病魔との闘い、あるいは日々の書店の出来事などを綴った作品です。
良いという評判を聞いていたので、読んでみることにしました。やっぱり本屋で働いている身としては、冒頭で書いたように特にこれと言って出来ることのない僕とは雲泥の差がある人ではありますが、親近感を持って読むことが出来ました。
本書を読んだ一番の感想は、「羨ましいなぁ」ということでした。こんな店で働きたいと思えるようなところでした。本書で書かれていましたが、数社の文芸出版社に聞いたところ、文芸書の売上の2割が東京都の書店からなんだそうです。残りの8割が東京都以外の県での売り上げということになります。出版社のほとんどが東京に集中しているためこういうようなことになるんだろうけど、即ち地方の書店というのは売上的にかなり厳しいのだ。しかも本書を読む限りこの啓文社という書店グループは、他の店舗と張り合うようにして競っているし、また皆職人のような人ばかりだ。そんな人たちの中で働くのは恐らくメチャクチャ大変だろうと思う。
それでも、いい本屋だなぁと思うし、働きたいなぁと思わせる本屋でした。
啓文社の社長が繰り返し言う言葉に、「合理主義者は祭りをなくす」というのがあるそうです。祭りというのは費用がかかるばっかりで効率が悪いけど、それでも祭りは決してなくさない、というモットーが啓文社にはあるようです。だから、スタッフ全員が浴衣を着て接客をする日があったり、クリスマスにサンタクロースに扮した書店員が各家庭を訪問するなんてこともやっているみたいです。確かに、それ自体によって売上が伸びるとは思いませんが、しかしそういうことを頑張ってやり続けているというのはすごいと思うし、面白そうな会社だなと思います。ネットカフェや古本屋なんかにも手を出しているようで、業種もなかなか幅広いです。もちろん、そこで働くのは大変そうだし、面接も僕は通るとは思えないんですけどね(面接についての話も本書にあります)。あと、下半身麻痺になった著者をまた雇う、しかも本社をバリアフリーに改築するなんていう社長には惚れますね。
やっぱり、上にいる人間がやる気があって下にいる人間を引っ張っていく、上にいる人間がまず率先して動く、というのが大事だなということを思いました。爪の垢を煎じて飲ませたいなぁなんて思ったり。
本書では、書店の話から離れた、著者が病気になり、リハビリをしたりするような部分にも結構ページが割かれています。こちらもなかなか面白いです。面白いなんて言っていいのか分かりませんが、悲壮感はなさそうだし(足が動かないのは、身長が低いのと対して変わらない、というのが全然強がりに聞こえません)、実際生活する上で苦労は多々あるんだろうけど、それでも前向きに生きています。
また何よりも、奥さんが凄いなと思いました。再発し隔離病棟に入った著者を毎日見舞っていたみたいだし(片道二時間半掛かるところにあったらしいです)、家をバリアフリーに改築しなくてはいけないから、元々住んでいた家を売ったり、著者の生活をサポートするために書店員の仕事を辞めたり(著者のひいき目もあるだろうけど、著者よりさらに有能な書店員だったと著者は書いています)と、素晴らしい献身っぷりです。まあ僕が同じことをされたら、ちょっと重いなぁって感じ何ですけど(笑)、いい夫婦だなと思いました。
内容については多岐にわたるので読んでみてください。以下、読んでいて気になった部分について抜き出しながらあれこれ書いてみようと思います。
著者が新人時代に働いていた店舗の店長が職人のような人だったみたいで、出版社の営業にも厳しかったようです。案内に来た新刊について質問を浴びせかけ、答えられないと出直してこいと言って追い返したとか。こういう書店員って、まだいるんでしょうか。どこかにはいるんでしょうね。きっとそういう方が出版社の営業マンも鍛えられるんだろうけど、なかなかそんなこと出来ないようなぁとか思います。
啓文社が女性客の多いファションビルの7階に出店した時のこと。著者が店長に任命され、「女性客メイン」の品揃えにしたようだけど、その売上比率がすごい。
週刊誌は駅前で売れてしまうので全然売れない。ビジネス雑誌もクルマ雑誌も全然売れない。女性誌だけの売上比率が15パーセントで、それよりも何よりもコミックが全体の35パーセントを占めていたとか。
これはすごい数字です。ウチの場合、雑誌が大体30パーセント強くらい、文庫とコミックが共に大体15パーセントくらいという感じ。かつてウチの店を立て直しにきてくれた人は、ウチならコミックは25パーセント行ってもおかしくない、と言っていたけど、それにしても35パーセントという数字は尋常じゃない。そういえばちょっと前に、三省堂書店有楽町店のある人と話す機会があって、その店では売り上げ比率の最も高いジャンルが文庫なんだそうだ。雑誌よりも文庫の売上の方が高いってどんな店だよとか思うけど、やはり書店によって売上構成比というのはいろいろ違うものなんだなぁと思った次第。
本書には、本一冊売ると書店にいくら入ってくるかという数字が載っている。
『500円の文庫本を1冊買ってもらうとおよそ100円の儲け』と書いてあるので、書店の取り分は大体20パーセントなんだろう。今までこの数字はあんまり知らなかったので、へぇと思った。僕の知り合いには、某大手出版社で働いている人間がいて、そいつによれば出版社の取り分は70パーセントらしい。残りの10パーセントをきっと取次が取っていくのだろうな、と思う。
啓文社は、今ではどうかしらないけど同人誌を扱っていたことがあるらしい。メジャーデビューしていなかったCLAMPなんかの同人誌を置くようになると、全国からお客さんがやってくるようになったらしい。ウチの置いたら売れるんじゃないかなぁ、同人誌。
「日本一短い感想文」コンクールというのを主催しているらしい。30字以内で感想を書くというルールだ。その発想が、帯にコメントとして付けたかったというのは単純だけどなかなか思いつかないかも。
前どこかで、新刊点数が増えているという話を書いたけど、その具体的な数字が載ってた。
1960年に一年間で11000点だった新刊が、75年には倍になり、83年には3倍になり、93年には4倍になり、2000年には6倍以上になった。もちろんそのすべてが書店に入ってくるわけではないが、50年前とくらべて新刊が6倍以上になった割に新刊がどんどん売れなくなっているというのが、本当に出版業界全体の危うさを表しているなと思う。
啓文社の1号店を閉店することになったのだけど、その時お客さんの一人が言った言葉。
「欲しい本が何でも揃っていたから便利で良かったのに」
啓文社の店舗は近くの駅前にもあるが(しかもそちらの店舗の方が遥かに大きい)、そのお客さんはその駅前の店舗には欲しい本はなかったという。1号店のスタッフは、来てくれるお客さん一人一人の顔を浮かべながら品揃えをしていたわけで、何でも揃っていたのも当然だったのだ。書店の大型化によって、こういう本屋が存在しにくくなってしまった、ということを嘆いています。
尾道出身の小林和作という画家のエピソードが面白い。
書店が出版社や取次に対してイニシアテブを取れる点として著者は二つ挙げている。
「どこにどのように置くか」
「何をどれだけ返品するか」
確かに僕も、担当者の仕事というのは突き詰めて考えればこの二点だけだと日々思っているので、同じ考えでちょっと嬉しい。まあ当り前のことなんだけど。
POPの文章はどうあるべきか、という文章がある。僕はPOPを作ってもらう際、文章だけは自分で考えるんだけど、どうもしっくり来ないものが多い。どういうシチュエーションで読んで欲しいか、その本があなたにとってどういう一冊になるのかというような、本の内容以外の部分でアピールできるような文章がいいかもしれない、と考えるんだけど、そううまく文章が出てくるかどうか難しいところ。
これは結構驚いたのだけど、
『返品業務には人件費もかかるし、首都圏にはないが、地方では返品運賃も書店が負担している』
と言う文章がある。僕が驚いたポイントは、首都圏の書店には返品運賃がない、という点だ。本当かな?僕のいる店は首都圏の本屋だと思うけど、返品運賃を負担してないのかなぁ。勝手に払ってると思ってたんだけど、どうなんだろう。
まあそんなわけで、都会の本やではなく、地方ならではの書店運営についていろいろと面白いことを知ることのできる本です。書店員はもちろん、本屋が好きだという人は読んでみたら面白いかもしれません。
児玉憲宗「尾道坂道書店事件簿」
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