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2008年12月31日

傍聞き(長岡弘樹)

「いつの間にか大晦日ですね」
「いや、ホント早いもんで」
「今年はこれが最後の感想になるよ」
「だからこんな、ショートショートなのか何なのか分からないような文章を書いてるんですね」
「まあそうだな。っていうかまあ、ショートショートを書くのがもうめんどくさいからなんだけどな」
「まあ何でもいいですよ。今年一年はどうでしたか?」
「今年は、どうもこれっていう本が少なかった気がするなぁ。もちろん面白い作品はたくさんあった。けど、ずば抜けているようなのはなかった印象だなぁ」
「そうなんですか」
「それと後は、小説以外の作品をかなり読んだ気がするかな。数学・物理系の本で非常に面白いものが多かった」
「なるほど。読む趣味も結構変わってきているみたいですしね」
「それは確かにあるな。外国人作家の作品も割と読むようになったし」
「時代小説はまだまだですけどね」
「あと落語ってのは今年の収穫かな。そんなに数としては読んでないけど、落語を扱った本が結構面白かった」
「昔はミステリばっかりだったのに、大分変わりましたね」
「まあそうだ。しかしいつも思うけど、このブログを読んでくれる人には感謝だね」
「ホントそうですね。今年は突然ショートショートなんてのを始めてね。つまんない作品ばっかり山ほど載せてね」
「それでも初めの方は結構頑張ってたんだぞ。三ヶ月もすると息切れしてきて、半年もすると適当になってきたけどな」
「ダメじゃないですか。でも何とか無理矢理ながら一年続いたんだから大したもんだと思いますけどね。来年はどうするんですか?」
「来年はもうショートショートはやりたくないからなぁ。今考えてるのは、本屋の仕事の話をいろいろ書こうかなとは思っているけどね。何が売れてるとか、こんなチャレンジをしてみたとか、後は本屋はよく使うけど本屋についてはよく知らないみたいな人に初級本屋講座みたいなのを適当に書いてみたりね」
「なるほど。まあそれはいいかもしれないですね」
「本屋の仕事だったらまあいろいろ書けるだろうから、何とか一年ぐらい持つんじゃないかな」
「まあ来年って言っても明日からですからね。まあ頑張ってくださいよ」
「言われなくても頑張るよ」
「ではではこの辺で終わりにしましょうかね」
「そうしようか。今年も一年、こんなつまらないブログを読んでくれてありがとうございました。来年もまた一つ、よろしくお願いいたします」

一銃「皆さんよいお年を」

というわけで最後はめんどくさくなったのでショートショートを止めて年末の挨拶みたいな感じにしてみました。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は四編の短編が収録された短編集です。

「迷い箱」
刑務所から出所した人を支援する更正施設の施設長である設楽結子は碓井という男のことが気になっていた。過失とは言え人を殺してしまった55歳。飲酒により健康状態もよくないし、特別な技術があるわけでもない碓井の再就職はやはり困難で、出来れば頼りたくなかった飯塚製作所に頼むことにした。
頼みたくなかった理由は、近くに川があるからだ。
碓井が飯塚製作所の寮に入った日は、ちょうど被害者の命日。その日から碓井は家電量販店や飲み屋へへ顔を出すようになるのだが…。

「899」
消防署員である諸上将吾は、近くに住む新村初美のことが気になっている。出勤のタイミングを合わせて会話をしたり、働いているそば屋に顔を出したりと努力をしている。
ある日初美の近所で火災がおき、諸上に出動命令が掛かった。初美の家まで延焼していたが、恐らく誰も部屋にいないだろうと諸上は思っていた。
しかし現場近くに来た初美により、赤ちゃんが中に残されていることが分かった。必死で探すも、諸上には見つけられない。後輩が見つけて事なきを得たが…。

「傍聞き」
強行犯係所属の刑事である羽角啓子は、担当ではないがすぐ近くで起きた居空き事件を耳にし、気に掛ける。啓子自身は連続通り魔を追っているのだが進展がない。
娘が啓子に対して怒っていて、それを郵便葉書を経由して伝えることが多くて、最近でもそれがまたあった。しかも内容は、窃盗犯ばかり追いかけて家を留守にしていることに対しての不満らしく、娘らしくないと感じる。
一方で、啓子の近所で起きた居空き事件の犯人だと思われている男から面会に来るように言われる。行く必要もないだろうと思った啓子だったが…。

「迷走」
救急救命士として救急車に乗っている蓮川潤也は、もうじき義理の父親になる室伏光雄隊長と共に仕事をしている。男が刺されたという一報があり現場に駆けつけると、そこには室伏の知り合いらしい男が倒れていた。
被害者の素性を知ると蓮川は怒りが込み上げてきた。被害者は、蓮川と室伏の敵とも言っていい人物だった。
被害者の搬送先が決まらない中、室伏はもう一人の敵とも言える男へ連絡するよう蓮川に言った。その男は医者だったが、蓮川は連絡をしなかったのだ。
その医者との連絡が突然途絶えて以降、室伏の様子がおかしくなった。病院に着いたのに被害者を下ろすことなく、サイレンを鳴らしたまま救急車を走らせ続ける…。

「傍聞き」という短編が、今年度の日本推理作家協会賞短編部門で受賞したようです。これは、横山秀夫「動機」、光原百合「十八の夏」、伊坂幸太郎「死神の精度」などが受賞しているもので、選考委員が満場一致で決定したと帯にあります。それで気になって読んでみることにしました。
四篇共に、非常に出来のいい短編だと思いました。短い話ながら、ミステリとして完成度が高いと思います。
どの作品も、刑事や消防士と言った社会貢献度がより高い人々を扱っています。生死に関わるような話だったり、人の人生が関わるような話だったりするわけで、設定がまずなかなかいいなと思いました。
「迷い箱」は、最後のオチは早々分かってしまいましたが、いい話だと思いました。碓井という不器用な男が、何故奇妙な行動に出たのか、そして何故「あれ」を実行に移したのがあの日ではなかったのか、というところが謎となっていきます。
「899」は、子供を亡くしたばかりの諸上の部下と、火災現場で何故子供が見つからなかったのか、という点が凄くうまく組み合わされていて見事だと思いました。子供を亡くしたばかりの部下の行動が正しいのかどうか考えてみて欲しいと思います。僕は、危険だったけど、正しかったんじゃないかなと思ったりします。
「傍聞き」は、メインとなる謎が二つあるんだけど、その内の一つについては大体分かりました。割と早い段階で気づきましたけど、それでもなるほどこれはうまいなと思いました。
もう一つの謎の方がメインになると思うけど、これはまさにタイトル通りなんですね。15番と呼ばれる男がどうしてそんな謎めいた行動をしたのか、という点が重要になってくるんですけど、なるほど面白い話だなと思いました。
「迷走」が僕は一番好きかもしれないですね。これは本当に最後まで、どういうことなんだろうと思って読みました。被害者に対して個人的な恨みを持っているはずの隊長がする一連の奇妙な行動。まるで被害者に対して復讐をしているようにしか思えないその謎の行動が、実はあっと驚くような理由によって行われていることを読者は知り驚くことでしょう。これは本当にお見事だなと思いました。
どの話も、主人公は何らかの誤解をするんですね。裏切られた、見落とした、襲われる、復讐をしているに違いない、と。しかし実際はまったく違っていて、主人公の解釈が間違っていたということが分かるわけです。その過程で、人間同士の深い関わりみたいなものを浮き彫りにしていくので、面白いです。まだデビューして間もない新人みたいですが、大いに期待できるなぁ、と思います。
非常にレベルの高い短編集だと思います。是非読んでみてください。

長岡弘樹「傍聞き」

2008年12月31日

2008年12月のマイ・ベスト本

2008年の月刊マイベスト、大トリを飾るのは……重松清『疾走』


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二つの表紙を合わせると、こんな感じです。

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2008年12月31日

大晦日

今年も残すところ、9時間足らず。
2008年を振り返ると予想外のことが起きることが多発。
昨日は内省していました。
結果としては、種を蒔いた年になりそうです。
だから来年以降が楽しみ。

また、本はよく読みました。
多いのか少ないのか102作品。
詳細は読書メーターに記録。
やはり、年を締めくくるのにふさわしくベスト10。
こういうのって性格が顕著にでますね。

【小説部門】

☆中山可穂『ケッヘル』
☆福永武彦『忘却の河』
☆池澤夏樹『すばらしい新世界』、続編『光の指で触れよ』(新刊)
☆夢枕獏『上弦の月を喰べる獅子』
☆三浦綾子『氷点』
☆井伏鱒二『黒い雨』
☆エレナ・ポーター 村岡花子訳『少女パレアナ』
☆水村美苗『本格小説』
☆古川日出男『聖家族』(新刊)
☆角田光代『森に眠る魚』(新刊)

新刊では『光の指で触れよ』は、2008年を象徴することがテーマで、かつ美しい文章が印象的でした。
『聖家族』は作家活動10年目にふさわしい長編。のちに文学評価としての分岐点になりそうな気がします。
それと『森に眠る魚』はダントツによかったです。心理描写が巧みで、現代社会への問題提議など角田さんらしさが出ています。重いテーマなので感想は年明けに書きたいと思います。

光の指で触れよ 聖家族 森に眠る魚

【その他】

☆幸田文『木』
☆アゴタ・クリストフ『文盲』
☆サン=テグジュペリ『人間の土地』

木 (新潮文庫) 文盲 アゴタ・クリストフ自伝 人間の土地 (新潮文庫)

心が揺さぶられて、時あるごとに再読したい三冊。
年齢を重ねたからこそ、その魅力や迫力が理解できたのかもしれません。

不況で暗いニュースが多いと、幸せなことってささやかな喜びや楽しさを感じることと思えた2008年。
皆さん、よいお年をお迎えくださいませ。
来年もよろしくお願いします。


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2008年12月31日

大晦日

今年も残すところ、9時間足らず。
2008年を振り返ると予想外のことが起きることが多発。
昨日は内省していました。
結果としては、種を蒔いた年になりそうです。
だから来年以降が楽しみ。

また、本はよく読みました。
多いのか少ないのか102作品。
詳細は読書メーターに記録。
やはり、年を締めくくるのにふさわしくベスト10。
こういうのって性格が顕著にでますね。

【小説部門】

☆中山可穂『ケッヘル』
☆福永武彦『忘却の河』
☆池澤夏樹『すばらしい新世界』、続編『光の指で触れよ』(新刊)
☆夢枕獏『上弦の月を喰べる獅子』
☆三浦綾子『氷点』
☆井伏鱒二『黒い雨』
☆エレナ・ポーター 村岡花子訳『少女パレアナ』
☆水村美苗『本格小説』
☆古川日出男『聖家族』(新刊)
☆角田光代『森に眠る魚』(新刊)

新刊では『光の指で触れよ』は、2008年を象徴することがテーマで、かつ美しい文章が印象的でした。
『聖家族』は作家活動10年目にふさわしい長編。のちに文学評価としての分岐点になりそうな気がします。
それと『森に眠る魚』はダントツによかったです。心理描写が巧みで、現代社会への問題提議など角田さんらしさが出ています。重いテーマなので感想は年明けに書きたいと思います。

光の指で触れよ 聖家族 森に眠る魚

【その他】

☆幸田文『木』
☆アゴタ・クリストフ『文盲』
☆サン=テグジュペリ『人間の土地』

木 (新潮文庫) 文盲 アゴタ・クリストフ自伝 人間の土地 (新潮文庫)

心が揺さぶられて、時あるごとに再読したい三冊。
年齢を重ねたからこそ、その魅力や迫力が理解できたのかもしれません。

不況で暗いニュースが多いと、幸せなことってささやかな喜びや楽しさを感じることと思えた2008年。
皆さん、よいお年をお迎えくださいませ。
来年もよろしくお願いします。


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2008年12月31日

2008年 mybest

12/27現在で 280約冊読了。

280冊のうち、小説でない本、新書(32)、ノンフィクション、実用書など、108冊。
172冊の小説のうち翻訳モノ28冊

その中で心に残っている本を振り返ってみる。

ノンフィクション
「インテリジェンス武器なき戦争」 手嶋 龍一,佐藤 優
「ヨシアキは戦争で生まれ戦争で死んだ」面高 直子
「ピンポンさん 」 城島 充 
「あの戦争から遠く離れて―私につながる歴史をたどる旅 」城戸 久枝
「そこに日本人がいた!―海を渡ったご先祖様たち 」熊田 忠雄
「歪んだ正義―特捜検察の語られざる真相」宮本 雅史
「戦いに終わりなし―最新アジアビジネス熱風録」江上 剛
「シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説 」ローラ・ヒレンブランド
「その数学が戦略を決める」イアン・エアーズ
「エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ」ジョン パーキンス
「私はフェルメール 20世紀最大の贋作事件」フランク・ウイン
「怖い絵」中野京子
「甘粕正彦乱心の曠野」 佐野 眞一
「政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年」 ジェラルド・カーティス
*新書
「ラジオの戦争責任」坂本慎一
「常識はウソだらけ」 日垣 隆
「黒いスイス」 福原 直樹
*エッセイ
「役にたたない日々」佐野洋子

小説
「すじぼり 」福澤 徹三
「蒼煌」黒川 博行
「沈底魚」曽根 圭介
「越境捜査」笹本 稜平
「オレたち花のバブル組」池井戸 潤
「ギフト」日明 恩
「カラスの親指 by rule of CROW’s thumb」道尾 秀介
「ジョーカー・ゲーム 」 柳 広司
*シリーズもの
「精霊の守り人」上橋 菜穂子
「断鎖 Escape」 五條 瑛
*時代物
「天璋院篤姫」宮尾 登美子
「影武者徳川家康」隆慶一郎
「算学武芸帳」金 重明
「覇王の番人 」真保裕一
「美女いくさ」 諸田 玲子
*海外
「スリーピング・ドール」ジェフリー・ディーヴァー
「運命の書 」ブラッド・メルツァー
「NEXT 」マイクル・クライトン
「戦慄 」コーディ・マクファディン
「チャイルド44 」トム・ロブ・スミス
「13番目の物語 」ダイアン・セッターフィールド
「漂泊の王の伝説」 ラウラ・ガジェゴ ガルシア


2008年12月30日

【天使の骨】 中山可穂

王寺ミチルは、情熱のすべてを傾けた劇団カイロプラクティックがつぶれてから無気力な日々を送っていた。やがて天使の幻覚を見るようになり、その頻度や天使の数が少しずつ増すにつれ、ミチルの心身は損なわれてゆく。

見かねた友人に背中を押されるようにして、ミチルは天使から自由になるための旅に出た。

中山可穂のデビュー作『猫背の王子』の続編。


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評価=☆☆☆☆☆  (5点満点)


書店で『トーマス・クック時刻表』を買い、旅行代理店で格安航空券を買い、スポーツ用品店でリュックサックとスニーカーを買い、メガネスーパーでコンタクトレンズの洗浄液を3本買い……と、ミチルが旅の準備を着々と進める様子を読むと、ちょっと楽しそうで、めっきりインドア派(あるいは半ひきこもり)の私も「旅に出ようかな」という気になりました。


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しかしミチルの旅は前途に何の希望も目的もありません。計画らしい計画もなく、体調を崩して倒れたり、お金が尽きたりとボロボロで、現地の人や行きずりの日本人に助けられながら旅をつづけます。

自殺行為とは言わないまでも、このまま日本へ帰らずに人生が終わっちゃってもいい、ぐらいの気持ちがミチルの心の底にあるのでしょう。

そしてミチルは過去の暴走を悔い、心を傷つけてきた相手に詫びたいと思いながらエーゲ海を眺めます。遠い日本にいる相手には、ミチルの思いは届きません。深い孤独がミチルの心に突き刺さります。

あのとき、もう少し慎みや思慮深さがあれば……と若い日々を悔いる気持ちは、誰にでも多少なりともあるものです。前作『猫背の王子』ではミチルの過激な言動に共感しかねましたが、こちらではミチルの痛みがひしひしと伝わってきます。



ミチルは痛みに打ちのめされたまま旅を終えるのか、それとも再生の鍵をつかむのか。最後の1ページまでハラハラさせられます。

きめ細かい筆致がとてもいい。「あれは十八歳の美しい五月だった」なんてね。なんかビリビリきますね。18歳のとき実際に何があったとしても、それを遠くから眺めるしかない大人にとっては、すべからく美しく、かつ痛いものなのです。


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