そこは、旅行会社に行ってもパンフレットすら存在しないような、観光的にはまったく何もないところだった。周りは田んぼか畑かあるいは山。神社やお寺があるわけでもなく、海水浴や潮干狩りが楽しめるわけでも、紅葉狩りやハイキングが出来るわけでもなく、観光名所になるようなものもまったくないところだった。そもそも泊まれるような場所も限られていて、行ったところで何をするというわけでもなく時間を過ごすしかないような場所だった。
当然観光客の姿なんかないだろうと思っていたのだけど、しかしそれは大いに間違いだったと言わざるをえない。行く場所など何もないはずの土地を、観光客らしい人々がたくさん歩いているのだった。いつの間にここはそんなに有名な観光地になったのだろうと、私は不思議な気分になった。
まあいい。何もないところをブラブラ歩いているだけでも充分気が晴れるし、それに占い師がここが良いって言ってくれたんだから、たぶん間違ってはいないんだろう。あそこに田んぼで農作業をしているおばあさんがいる。飛び入りで手伝ったりしたら迷惑かな?
僕はZ県の役所で働いていたのだけど、どういうわけか今は東京にいる。何でこんなことになったんだろうか。
Z県の役所内にある観光課では、どうしたらこの県に観光客を呼べるかという議論をよくしていた。もちろんいい案が浮かぶわけもない。そもそもこの県には、観光の目玉に出来るようなものが何一つないのだ。
そこである職員が奇抜なことを考え出した。
「占い師に扮して、この県に人を呼んだらどうだろう」
何故かその案が採用されて、そして何でか知らないけど僕が東京に出て占い師の真似事をする羽目になった。
初めの内はふてくされていた。こんなの、役所の人間の仕事じゃないだろ、と。来てくれた人におざなりに相手をして、そして最後に、Z県に行くといいですよ、と付け加えるだけの適当なことをずっとやっていた。
しかし、何が幸いするのか分からない。いつしか僕の占いは評判になっていたのだ。よく当たる、なんて紹介されることが多いんだけど、みんなどんな勘違いをしてるんだろう?
今では僕は人気占い師として注目されている。一応義理でZ県への案内は続けているけど、別にもう止めてもいいかなって思ってる。占い師として食っていく方がお金になりそうだしね。
一銃「占い師の招待」
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、地球ではないどこか別の惑星を舞台にした話です。しかし、そこでの異星人は人間型で、感情や思考なんかも地球の人間に近い、っていう設定になっています。
政府の高官である父を持つドローヴは、毎年恒例の夏休暇を過ごすために港町バラークシを訪れる。そこには、去年ほんの少しだけ話したことがある宿屋の少女ブラウンアイズが住んでいて、ドローヴは彼女との念願の再会を果たす。他にも同世代の遊び相手が出来て、ドローヴは彼らと日々共に過ごすことになる。
戦争の陰が町を覆っていき、また町の住人と政府の人間との対立も深くなっていく。粘流というこの惑星特有の現象も近づいて来て慌しくなっている。お互い気になっていたドローヴとブラウンアイズは気持ちを確かめ合い、急速に仲良くなっていく。
しかし、誰もが予想し得なかった壮大な計画が進行していて、そしてその時がやってきてしまう…。
というような話です。
ちょっと今日は時間がないので急ぎ目で感想を書くけど、割と面白い作品だと思います。ただ帯や表紙裏の内容紹介のところに、『SF恋愛小説の最高峰』とか、『SF史上屈指の青春恋愛小説』とか書いてあるんですけど、さすがにそれは言いすぎじゃないかなと思います。そういう文言をそのまま信じて読むと、ちょっと肩透かしを食らわされるような気がします。
僕はいつ思っているんですけど、帯の文句とかはちょっとやりすぎだなと思うわけなんです。確かに出版社としても本を売らないといけないわけで、誇大広告気味の文句を書いて読みたいという気を煽るしかない、というのもわからなくはないんだけど、でも帯の文句で余計に期待を煽りすぎる分、その作品がたとえ素晴らしい作品であっても感動が薄れてしまうと思うんです。僕も今まで何度もそういうことがあったけど、そうなると帯の文句に信用を置けなくなっていきますよね。そうなるとまたどんどん本が売れなくなるという悪循環になっていくと思うわけです。
本作は、『SF』と呼ばれるけど、SF的な部分はあんまり多くはありません。もちろん最後の最後でSF的な展開が活かされるし、粘流や奇妙な動物の存在などSF的な要素はあるんだけど、基本的には青春小説のウェイトの方が大きいと思います。ドローヴという少年の成長物語という風な読み方でいいと思います。
実際ドローヴを中心として様々な出来事が起こります。両親との対立、新しく知り合った友人とのあれこれ、バラークシの住人との触れあい、ちょっとした悪戯や冒険、そして何よりもブラウンアイズとの恋愛。こういういろんな要素が組み合わさって物語が進んでいきます。
後半、壮大な機密計画の全貌が明らかになって、ドローヴは非常に苦しい立場に立たされることになります。もし自分が同じ立場だったらと思うとやりきれないものがありますね。しかし、これが救いだと思うんだけど、最後の最後でドローヴは勝利することになります。この、『ドローヴの勝利』と僕が呼ぶ展開はなかなかうまいと思いました。それまでに出てきた伏線をうまく使って、なかなか大きな仕掛けに持っていったなと思いました。
SFと言われるとちょっと臆する人もいるかもしれないけど、基本的には青春小説だと思っていいと思います。一人の少年の成長を描いた作品で、文章も読みやすいいしなかなか面白い作品だと思います。すごくオススメするわけではないですけど、興味があったら読んでみてください。
マイクル・コーニイ「ハローサマー、グッドバイ」

ハローサマーグッドバイ文庫











