名前を見て、なるほどお祖母ちゃんのか、と思った。
お祖母ちゃんは2年前、癌で亡くなった。最後まで決して病院に行こうとしなかった。一旦行けば戻ってこれないことが分かっていたのだろう。それに、私たちだってそう簡単に見舞いに行ったり出来ないのだ。ならば、住み慣れた家で親しい人と最後を過ごしたい、とそう願ったのだ。
悪くない人生だったはずだ。
ここに越して来たのはお祖母ちゃんたちだったそうだ。当時、周囲から猛反対を受けたという。それはそうだ。今でこそ、それなりに認知されているとは言え、こんなところに住もうと思う人などいないよ。私にはその言葉はよく理解できなかったけど、お祖母ちゃんはよくそう言っていた。
私はここが好きだった。ここ以外の生活を知らないだけだからかもしれない。それでも、私はここでの生活を気に入っているし、ここから出て行こうと思うこともない。
お祖母ちゃんは、昔の話をあまりしてくれなかった。今から思えば、知らなくていいことは知る必要はない、と思っていたのかもしれない。私はお祖母ちゃんに、ここから出て行くつもりはない、とずっと言っていた。ならば、ここ以外の生活を教えることもないだろう、とそんな風に思っていたのかもしれない。
だからこの日記を読めば、ここ以外の生活について少しは分かるかもしれない。そんな風に期待したのだ。
4がつ5にち
きょうは、でんしゃでとなりの町までいきました。でんしゃははやくて、でもぜんぜん怖くなかったです。となりの町ではお洋服を買いました。いろんなお洋服があって楽しかったです。
でんしゃってなんだろう。そういえばこの前見た映画に出てきたかも。運転手がいて、降りる時にブザーを押すあれ。たぶんそうだ。
4がつ6にち
きょうは、あやなちゃんといっしょに川にいきました。川でカメを見つけてびっくりしました。川についていったらどこまで行けるのかやってみたけど、あんまりにもどこまでもつづいてるので、こうりょく橋のてまえであきらめました。
川かぁ。何だろうな。どこまでも続いてるのか。それなら確かに、ついていってみたくなるだろうな。すっごい長い蛇とかかな?
お祖母ちゃんの日記を読んでも、私にはイマイチよくわからない言葉ばっかりで、よくわかりませんでした。こうして私達は、地上での生活をどんどん忘れてしまうのでしょうね。
空に浮かぶ島に住む、私達のような少数民族は。
一銃「お祖母ちゃんの日記帳」
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、ライトノベルの人気シリーズ「狼と香辛料」の第四巻目です。
まずはシリーズ全体の設定を。
旅商人であるロレンスは、行商の途中、一人の少女を拾った。ホロと名乗るその少女はしかし、何百年もの時を生きている神様であり、麦に宿るという豊作の神様だったのだ。
二人はちょっとした理由から旅を共にすることになり、そしてさらに、ホロの故郷を一緒に探すことになった。ホロの故郷であるヨイツの場所を、既にホロは忘れてしまっている。ロレンスの行商の行く先でヨイツについての情報を集めるのだけど…。
さて、本作の内容です。
異国の物語を集め続けている聖職者がいる修道院の話を聞きつけた二人は、早速そこへ向かうことに決める。しかし、その修道院の場所を知っているという人物は、テレオという町の教会にいるという。しかも、そのテレオへの道を聞くのに一旦エンベルグという町に行かなくてはならない、という行程である。
さて、テレオの教会に辿り着いた二人だったが、しかしそこで彼らを出迎えたのは一人の少女であった。しかも、修道院の場所は知らない、という。明らかに嘘だった。
二人はしばらく町に逗留し、修道院の場所を探ることにするのだが、その間にテレオの町が隣町エンベルグと抱えているトラブルに巻き込まれることになり…。
というような話です。
さて、どの巻を読んでも絶好調に面白い「狼と香辛料」も、なんと4巻までやってきました。4巻まで読んでもまだ面白いライトノベルとか、ホントすごいなと思うわけです。
もちろん本作も、相変わらず絶好調に面白いですね。というか、この「狼と香辛料」というシリーズは、巻を増すごとに面白くなっているという印象があります。
これまでのシリーズ3冊では、彼らが巻き込まれるトラブルは商売上のものであることが多かったですが、本作では違います。これまでは彼らは商売上のトラブルに巻き込まれその中心にい続けますが、今回は基本的には傍観者です。町と町が抱える問題の巻き添えを食らった、という形です。しかも、問題の大半は宗教上のものであり、経済上の問題ではありません。彼らはずっと傍観者でいられればよかったのですが、最後には結局巻き込まれ、乗り越えていかなくてはいけなくなってしまいます。
どの巻を読んでもそうですが、この巻き込まれるトラブルの設定が非常にうまいですね。実に細部までしっかりきちんと考え込まれています。町に住む人々の生活や言動から背景を推測したり、大きな流れの中で不可避な状況というのをきちんと押さえているし、そのトラブルを巡る中での人々の感情や動きについても非常に繊細に追っています。
そして何よりも素晴らしいと思ったのが、今回のトラブルが微妙にホロの問題と重なることです。それによりホロが取り乱すシーンがあるんですけど、この場面を読んだ時、この作家の構成の巧さに舌を巻きました。これは偏に、その世界で生きる人々の感情の動きというものを著者が正確に掴もうと努力しているからこそ出来ることだろうな、と思いました。お見事です。
さらに、恐らく本シリーズ最大の魅力と言ってしまってもいいと思うけど、ホロとロレンスのやり取りが素晴らしいですね。大雑把に斬ってしまえば、彼らはただイチャイチャしてるだけ、と言えなくもないんですけど、その状況に適切にマッチした言葉の罠を仕掛けて相手を嵌めたり、急に素直になってドキッとさせたりと、まあ基本的にロレンスが翻弄されっぱなしなんですけど、このやり取りの見事さといったらないですね。
シリーズを追う毎に面白くなっていくのには、このホロとロレンスのやり取りがどんどん面白くなっていくからという点もあるでしょうね。一巻目ではまだやっぱりぎこちなかった二人が、いろんなことを乗り越えて行く中で相手を知り、またいろんな会話を交わす中で相手とのやり取りのコツを掴んでいき、そうして今のようなやり取りになっていったわけです。素晴らしいです。このホロとロレンスのやり取りをメインで読むという読み方も全然アリだと僕は思います。
まあ何にしてもですね、これほど面白いライトノベルはないんじゃないかと思ったりしますね。まあそもそも僕はそんなにライトノベルを読まないんで比較の対象が少ないですが、少なくとも今まで読んだライトノベルの中ではトップです(西尾維新の<戯言>シリーズを外すなら、ですが。<戯言>シリーズは、僕の中ではライトノベルに分類されてないので)。
最近、ライトノベルの世界から文芸の世界にやってくる作家が結構いますけど(有川浩や橋本紡など)、もし次に来るとしたらこの支倉凍砂じゃないかなと思ったりします。だって、この「狼と香辛料」は、内容はそのままでカバーだけ替えれば、新潮文庫の棚に入ってても違和感ないような作品ですよ(「守り人」シリーズみたいなイメージです)。これだけ人間をうまく書ける作家なら、ライトノベル以外にも活躍の場はたくさんあるだろうな、と思います。とはいえ、ライトノベルで出す方が圧倒的に本は売れるでしょうから(有川浩と桜庭一樹は例外中の例外でしょう)、そのままライトノベル業界だけにい続けるという可能性もありますけどね。
僕はもう既にⅤ巻も買っているわけです。ちょっとしたら読むつもりです。これほど読むのが楽しみなライトノベルというのも凄いですね。まだ読んでない人がいたら、ホント面白いので、是非読んでみてください。シリーズを追う毎にドンドン面白くなっていきますよ!
追記)amazonのレビューを見ると、この巻はどうも評価が低いですね。シリーズ全体の小休止、と柔らかな表現を使っている人も多かったですけど。そうかなぁ。僕は相当面白かったと思うんだけど。
支倉凍砂「狼と香辛料Ⅳ」

狼と香辛料Ⅳ文庫











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