3月8日
明日はユウヤ君がプレステを持ってウチに遊びにきてくれるはずだ。やりたかったゲームを手に入れたって言ってたからそろそろのはず。
3月9日
明日は家族で外食に行けると思う。出来ればラーメンがいいな。近くに行列の出来るラーメン屋がある。そこに行きたい。
3月10日
明日は僕の誕生日だから、プレゼントをもらえると思う。何をくれるかな。めちゃイケのDVDが欲しいんだけど。
3月11日
明日は自動販売機でジュースを買ったら当たりそうな気がする。道を歩いていたらお金を拾えそうな気がする。宝くじを買ったら当たりそうな気がする。
「何読んでるんだ?」
「あぁ、これはあれだよ。ちょっと前の…」
「ナカタ君のやつか?」
「そう。彼が書いてた日記だよ」
「未来日記ってわけか」
「次の日のことを考えてないとやってられなかったんだろうな」
「学校でのいじめに家庭内暴力、万引きなんかも強要されてたらしいし、お金も大分盗られてたらしいからな。両親の喧嘩も絶えずとくりゃあ、そりゃあ死にたくもなるかもな」
「彼の未来日記はさ、ほとんど実現しなかっただろうけど、一つだけ現実になってるんだよ。ほらここ」
『3月29日
明日僕はきっと自殺しているだろう』
一銃「未来日記」
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、1975年の1月から12月までの一年間、14歳の中学生である主人公がつけていた日記という体裁で物語が進んでいく作品です。
主人公はいつも何か『衝動』とでも呼ぶべきものを抱えながら毎日を過ごしている。それをオナニーやちょっとした仕返しや、あるいは女の子とのデートなんかで紛らわせながら日々すごして行くんだけど、どうも何かぶっ壊したい衝動がついて回る。友達と山に登ったり、映画を撮ったり、いじめたりいじめられたり、両親の不仲があったり、同級生が病気になったり、家庭教師がウチに来たりといろんな出来事が日記に書かれていく。
14歳という多感な時期に、毎日綴られたという設定の日記。中学生がどんなことを考えながら日々生きているのかということがよくわかる作品です。
本作はちょっとすごいなと思いました。小説としても面白かったんだけど、それ以上に、これを書いた作者はすごいなという感想の方が強いですね。
本作は、ホントに他人の日記を読んでるようなリアリティを感じさせるんですね。よく日記形式で書かれた小説とかはあるけど、そういう作品って大抵、ストーリーを伝える手段の一つとして日記という形を採用しているだけという感じがして、誰かの日記を盗み読みしているという感覚はあんまりないんですよね。
でも本作は、ホントに誰かの日記を盗み読みしている感じなんです。何よりもその感覚を強めるのが、本作には明確なストーリーは一切ない、ということなんですね。
例えば桂望実の「死日記」という作品があって、これも同じく主人公の日記という体裁で書かれている小説なんだけど、「死日記」の方は明確にストーリーがあって、そのストーリーを伝えるために必要なことが日記に書かれているということがわかるわけです。
でも本作ではそんなことはまったくないわけです。まさに、中学生の一年間に起こりそうな出来事を、適度に脈絡なく書いていて、本物の日記を読んでいる感じがします。
すごいのが、ホントに唐突にいろんなことが書かれるんですね。例えば、『夜父親がVANのトレーナーをくれた。』みたいな文章がちょろっと書かれたりするんだけど、これなんかどこかに伏線があったわけでもなんでもないし、まさに唐突に出てくるわけです。でも、実際そういうことってありそうだし、そういうことがあったらたぶん日記に書くわけで、こういうどうでもいい些細な記述がものすごくたくさんあるので、本物の日記っぽいんですよね。オナニーしたとか、おっぱい触りたいみたいなことはちょっと考えれば書けるけど、例えば学校の水道の蛇口が取れて水浸しになったとかっていうのは、脈絡なくぽんと思いついて書くのはすごく難しいと思うわけで、そういう意味で、中学生の一年間の日記を想像だけで(もちろん自分の経験もかなり参考にしただろうけど)作り上げたこの著者はちょっとすごいな、と思ったわけです。
もちろん、中学生はこんな言葉知らないだろとか、こんな漢字書けないだろとか、こんな言いまわしはしないだろ、みたいなところはあるけど、そういうところは小説としても成立させなくてはいけないという現実との妥協点なわけで、そういう部分があっても作品全体の質が下がるとは思えないですね。それ以上に、内容のリアリティがものすごくて、一貫したストーリーなんか全然ないし、いつだってアホみたいなことばっかりやったり考えたりしてるだけなんだけど、それでもホント面白い作品に仕上がってるな、と思いました。
これは是非いろんな人に読んでもらいたいですよね。現役の中学生にも読んで欲しいし、1975年当時中学生だった人にも読んで欲しいし(僕は知らないけど、当時を思い出させる懐かしい固有名詞がいろいろ出てくると思います)、それに中学生の子どもを持つ親にも読んで欲しいですね。とにかく、中学生男子は毎日こんなことを考えているんだし、それに中学生ってのは案外大変なんだということもよく分かると思うわけです。大人って、自分も子どもだった時期があるはずなのに、大人になると子どもだった頃のことを忘れてしまうんですよね。そういうものを思い出させてくれる作品でもあるかもしれません。
僕はかなり傑作だと思いました。僕はこの本の角川文庫版をしばらくPOP付きで売り場に置いているんですけど、もう少し頑張って売り伸ばしてみようかなぁ。もう少しグッと来るPOPのフレーズでも考えて頑張ってみようと思います。
島田雅彦の作品は初めて読んだけど、他の作品もちょっと読んでみようと思いました。
島田雅彦「君が壊れてしまう前に」
君が壊れてしまう前に文庫
| このブログのURL
|この記事のURL