かつてヘミングウェイが暮らしたキューバの邸宅で、白骨化した遺体が発見された。
元刑事で小説家志望のマリオ・コンデは、元同僚から話を聞き、若いころ崇拝した文豪に嫌疑がかかることに心おだやかではいられず、自ら捜査に乗り出す。
2時間もののドラマで、たとえば飛行機の客室乗務員をやっている女性が、刑事の夫から事件の話を聞き、頼まれもしないのに事件を調べ始めちゃう話って、ありましたよね。
そういうのを見ると、
刑事が捜査中の事件のことを一般人にベラベラベラベラ喋っていいのかよっ!
という疑問にかられます。
本書でもその疑問はつきまといます。マリオ・コンデは刑事を辞めて古本屋をやりながら小説を書こうとしている男です。元刑事は元刑事であって、現職の刑事とは違う。
しかし客室乗務員しか知りえない情報、たとえば「この航空会社のこの路線ではこんな機内食は出さないのよ」みたいな話がアリバイ崩しに役立ったりもします。
ヘミングウェイ宅で事件が起きたらヘミングウェイに詳しい人間に話を聞く。その人間が警察の仕事について理解のある者だったら、なおさら都合がいい。
まあ現実にありえるかどうかは別として、話の流れは自然かなと、私は自らの荒ぶる心を鎮めたのでありました。
ご存じのとおり、アーネスト・ヘミングウェイは1954年にノーベル文学賞を受賞した世界的な文豪です。自ら戦争に行ったり冒険をしたりした経験をもとに、数々の小説を書きました。
まあ「行動派の作家」と言えますが、小説のネタを求めて積極的に戦争に関わるのはいかがなものかという批判もあったようです。私生活では結婚と離婚を何度もくりかえし、晩年は躁鬱に悩まされて執筆も思うにまかせず、1961年にライフルで自殺を遂げました。
本書38ページ、39ページからの引用です。
《 彼にはわかっていた。自分には想像力が足りず、あったとしても当てにならない、と。だから実際に見聞きしたり体験したりしたことしか書けず、ぞのせいで、彼が文学に求めるリアリティをじんわりとにじませることが可能な作品しか生みだせなかった。》
《 彼にはもちろんわかっていた。小説を創作するために自分で自分の人生を創作するほかなかったのだ、と。書くために戦い、殺し、釣り、生きなければならなかったのだ、と。》
世間の批判が当たっているかどうかはともかく、ヘミングウェイの心の中に、私のような脳天気な読者には想像しえない苦しみがあったに違いありません。
本書は文豪ヘミングウェイの悲惨な晩年の姿が浮き彫りにされるという点では非常に興味ぶかいのですが、ストーリーの大枠はヘタな2時間ドラマとさほど違わないと思います。
だいたい、ヘミングウェイ宅で40年前の白骨死体が見つかって、すぐヘミングウェイに嫌疑の目をむける警察の態度が腑に落ちない。それに、白骨死体と一緒にFBI(連邦捜査局)のバッジが出てきたからといって、死体の身元が判明したと決めつけてしまっていいのか。
生前のヘミングウェイに関する記述はきめ細かくて、なかなか面白いですが、そちらに力が入りすぎたのか、どうもミステリー部分の粗さが気になりました。
そういえばヘミングウェイの伝記が家にあったなぁと思い、本書を読み終えてからガサガサと本棚をあさってみました。
私が買った本ではありません。おそらく叔母が置き忘れていったものですが、かなりボロっちい本だったので母が捨ててしまったようです。
たぶんこの本だったと思います。
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