大人になるにつれて、守らなくてはいけないものというのはどんどんと増えていく。
子供の頃は守られる立場にいる。周りの人間に助けられ、庇護されながら生きていくのだ。もちろん子供にだって守らなくてはいけないものはあるけれども、それはちょっとした優越感であるとか、あるいは些細な立ち居といったようなもので、必死で守らなくてはいけないというものでもない。
しかし大人になればなるほど、自然守るべきものは増えていく。
自立し一人で生きていかなくてはいけなくなると、自分が立っている不安定な立場であるとか、あるいは大人としての責任感だとか、あるいは家族であるとか、そういう様々に守るべき対象が増えていく。守るべきものが増えすぎて、大人というのはどんどん身動きが取れなくなってしまうように僕には思える。因果なものである。
僕は大人と呼ばれる年齢になってはいるけれども、しかし守るべきものをなるべく持ちたくないと思っている。僕が人生から逃げ続けている理由の多くはここに帰するのではないかと思う。
とにかく僕の人生は、守るべきものをいかに殺ぎ落とすかということに費やしてきた人生であった。守らなければならない状況から逃げ、それを手にしてしまったとすればすぐさまそれを捨て、常に身軽であることを選択してきた。そのためにきちんとした大人になることは出来ていないし、今でも必死で逃げ回っている卑怯者であるのだけど、しかし今の生き方を変えるつもりは特にはない。
僕にはどうしても不思議で、どうしてみんな大人になると、そんなに守る覚悟を身に付けることが出来るのだろうか、ということだ。誰もが大人になると、自分の生きる地盤を守るために潔くサラリーマンになり、またわざわざ苦労をしてまで守るべき家族を手に入れたりする。その他にも、生きていれば様々に余分な守るべきものが吸い付いてくるというのに、どうして人々はそれを平気な顔をして受け入れることが出来るのだろうか。どうしてもそれが分からないのだ。
子供の頃僕は、大人になる過程できっと何かが起こるのだと思っていた。今のままの僕が大人になってもまともな大人にはなれないことはずっと昔から知っていた。まともな大人になりたかった僕は、きっと人生のどこかで転機が訪れ、何かが大きく変化し僕をまともな大人へと導いてくれるのだと思っていた。というか、皆誰もが大人になるためにそういう過程を経るのだと思っていた。
しかし、別にそんなことはなかった。僕はずっと子供の頃の僕のままだったし、いつまで経っても変化はやってこなかった。もしかしたら僕以外の人にはそういう何かがやってきたのではないかとすら思う。自分だけチャンスを逃してしまったのではないだろうか。
今でも僕は、何かを守るという行為が酷く苦痛だ。それは、自分を含めた誰かの人生を大きく握ってしまうということである。僕はそれに見合う責任のある行動はどうしても取れそうにない。だから、なるべく人とは関わらず、ひっそりと生きていこうと思っているのだが。
守るものをたくさん持っているものはすごいと思うし強いと思う。羨ましいけど、でも憧れはしないという矛盾が僕の中にあって難しいのだけど、もっとちゃんとした大人になれればよかったのにな、と思うことはよくあります。
そろそろ内容に入ろうと思います。
バルサは恐るべき強さを持った女用心棒。お金で依頼を受けて、誰かを守るというのを仕事にしている。
そんなバルサが橋を渡っている時、その一本上流側の橋を皇族の行列が渡っていたことが、バルサの運命を大きく変えることになる。
牛が突然暴れ、乗っていた皇子が川に投げ出されてしまった。咄嗟に川に飛び込んで皇子を救出したバルサは、その後感謝の意を込めて宮殿での接待を受けることになる。
しかし話はそこで終わらない。バルサにとっては寝耳に水の驚くべき展開が待っていたのだ。
なんと、バルサが助けた二の妃の息子であるチャグムを引き取って欲しいと言われたのだ。チャグムには現在特殊な事情があり、その父親である帝から命を狙われる羽目になってしまった。自分の元からいなくなるのは淋しいが、しかし殺されてしまうよりも、例え遠くであってもどこかで生きていて欲しい。そう二の妃に言われ、バルサは依頼を受けることに決める。
そこからは、帝に使わされた追っ手から逃げる、チャグムとの旅が始まる。
チャグムに訪れた事情というのはいささか厄介なものであった。なんとチャグムの体には、ある生き物の卵が隠されているのだという。百年に一度卵を産むといわれるその生き物は、海の中にいて雲を生み出すと言われ、卵が無事返られなければ旱魃になるとも言われている。恐ろしいことに、その卵を食べようと狙っている恐るべき怪物の存在があるらしい。バルサは、帝からの追っ手とともに、その怪物からもチャグムを守らなくてはいけなくなるのだが…。
というような話です。
このシリーズは、まあもちろん昔から評判の高かったシリーズなのでしょうが、児童文学として出版されたためになかなか広く認知されることのなかった作品でした。しかしこれが新潮文庫に収録されるようになり、またNHKでもアニメ化されているということで、ちょっと今話題になっている作品だと思います。
僕はいつもファンタジー作品を読むと言っていることだけど、基本的にファンタジーというのは得意ではありません。子供の頃それに類するような作品も読んでこなかったし、RPGみたいなゲームだって一度もやったことがありません。ファンタジー系の漫画やアニメに触れたことも特になく、だから僕の中にはファンタジーの文脈というのがどうも欠如しているようです。
それでも、この作品はかなり面白いかもしれないな、と思いました。ファンタジーというのは詳しくないのであまりウダウダとは書けませんが、世間的な評判が高いのも頷けるなと思います。
ストーリー自体はどこまで変わったものではないと僕は思います。恐らくファンタジーではよくある展開ではないかと思います。何か秘密を持った人間が逃げ、その秘密を守らなくてはいけないと考えている勢力が追いかけるという構図で、まあよくあるものでしょう。
恐らく本作の評価が高いのは、背景の設定みたいなものが緻密であるというところではないかと思います。新ヨゴ皇国という国の伝説、もとからその土地に根付いていた伝説、星読博士の存在、バルサの来歴、その他多くの部分でその設定が優れているという風に思います。もちろんファンタジーをそんなに読み込んでいるわけではないので断定は出来ませんが、恐らく本作を高く評価している人の意見はそういうことではないかなと感じます。
またキャラクターが結構いいです。バルサやチャグムなどの主要な登場人物はもちろんですが、ほんの一瞬しか出てこない脇役でさえもどことなく印象を強く残す感じがあります。
バルサの恋愛やチャグムの成長など様々な要素が絡み、物語を一層深くしているし、またこの作品は<守り人>シリーズと言われるシリーズになっているのだけど、この後バルサとチャグムは一体どうなるのだろうかという部分も非常に気になります。とりあえずしばらくシリーズを読んでいこうかなと思います。
ファンタジーが好きという人なら手に取るべき作品ではないかなと思います。ファンタジーが得意ではないという人にも読みやすいんではないかと思います。僕は、「ハリー・ポッター」は1巻だけ読んでもういいかなと思いましたが、本作は続きが読みたいなと思わせる作品でした。アニメにもなってるようなので、それを観てからというのでもいいかもしれませんね。読んでみてください。
上橋菜穂子「精霊の守り人」
精霊の守り人文庫
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