カミソリを素手で握りしめるような痛みだな、これは。
とっとと握りしめてるものを離して、消毒して包帯まけよ! 見ている側はそう言いたいが、握ってる本人は手をうまく動かせず、血ばっかりダラダラ流れて……。
手を動かせないところに心を寄せ、「なにか深い事情があるんだな」と思える人には感動できる本。
逆に、「カミソリを握るのも離すのも自分自身の意志だよ。なんか滑稽……」と思う人は無理して読まないほうがいい。
まず「那智」と「理緒」という女性2人の生い立ちが語られ、2人が出会って愛が生まれ、周りの人々に迷惑をかけて、それでも消えない愛に生きる方法を模索する姿を描く。
2人とも家庭環境が複雑で、子供のころに傷ついた心をそのまま抱いて大人になった。職を得て親元を離れ、自活し始めたのはいいが、恋愛となると不器用きわまりない。
本心を隠したまま――というか、自分でも自分の本心がよくわからないまま、男性遍歴をかさねて無意識に自分を傷つける那智。
ビアンであることを早くから自覚していたものの、自分の想い人には想われず、想わぬ人から想われて、片恋の痛みに沈む理緒。
こういう2人の間に生まれた愛は、一般的には同性愛というカテゴリーに分類されるが、おそらく那智に必要なのは大きく包み込むような「愛」で、男女の性差はあまり意味がないのかもしれない。
しかし「どっちでもいいわ」という曖昧さは、時と場合によっては罪深い。
その点、理緒は自分の求めるものがはっきりしていて、まあ世間の無理解や片恋の痛みはあるものの、これが私の生き方だから仕方ないと開き直ることもできる。理解のない人間からは離れればいい。
那智の場合は男性と結婚し家庭を持った後で、ようやく自分の本心に気づいたから話は厄介になる。
自分の心を周囲の状況に合わせて生きてきた那智が、今度は心のままに生きようとすると、解決すべき問題や背負わなければならない荷が、あまりにも多いのだ。
那智は愛を貫き通せるのか。理緒は愛する人の手を離さずにいられるのか。
他の作品と同様、激しいストーリーです。中山さん。
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