<ゆっくりでええから、坂上ろう。通天閣が見えるから>
人と関わり切れない。壊れた時計に囲まれた生活。夢すらなく、ただ毎日、工場で働く男。恋人のマメと遠距離恋愛を余儀なくされ、スナックに勤める女。そんな二人に通天閣は優しく問いかける。
この作品でも、西さんは上手いことを痛感しました。関わりを避ける男と、恋人が去った後、「わたしたち別れたわけではない」と信じている女。そんな男と女の日常を、淡々と書いていきます。この手法は西さんお得意ですよね。これが、可笑しい。例えば、男がいつも行く、中華店。女の勤めるスナックの人々。
それは、けっして明るいものではなく、読んでいるうち、どうしようもない気持ちになっていくんです。どこまで落ちるのかという気分なんですね。
しかし、この男の中に、女の中に確かに自分がいるんですね。ぐうたらな男の生活や、
恋人と別れても信じている女の心の会話の中に。それだけ、この会話が印象的。大阪弁も効いています。
ふたりの日常が積み重なった、ラストは二人がいつも見ている通天閣。この時、二人の人生がシンクロします。そして、事実が分かるんですね。巻き込まれた事件に、
会話が実にいいんです。そうきたか!と膝を打ち、なぜか涙がこぼれている。
まんざら、人生も捨てたもんじゃないと思えてくるんです。
本当に、西さんの手腕にやられましたねー。
通天閣に上って恋人と別れた傷心の女に。スナックのママが励まして言うんです。
「ゆっくりでええから、坂上ろう。綺麗な通天閣が、見えるから。いつか、この高みから、いつかの自分を、見下ろせる日が来るから」
それを聞いて女は思うんです。「ガラスが汚い。この窓拭きたい」と。きっと涙でガラスが曇って見えないんですよ。
上手いですねー。こういう描写。
窓を拭きたいというのは、前段があるんですよ。ちゃんと、つながっている。
この二人の人生の続きが読みたい。どうシンクロするんでしょうか。きっと、男は時計に囲まれ、女は寂れたスナックに働いているんでしょうね。
【筑摩書房/[:時計:][:時計:][:時計:][:時計:]】
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