日本を代表する研究拠点「脳科学総合研究センター(Brain Science Institute;BSI)」から第一線の脳科学者たちが、集結し、研究最前線を見せ、語り、答えるイベント「脳科学ひろば」が週末に亘って青山スパイラルにて開催されていたので足を運んでみることに。茂木健一郎氏の著書の影響で脳科学に興味を持ち始めたのがそもそものきっかけで、ご本人も土曜日に講演を行ったようだ。

当イベントの目玉はBSIの研究室が大集合する"ゲノム広場"方式のメインプログラム、「BSIラボが勢ぞろい」だ。各研究室が独自で行っている最新の研究結果をブース事に展示されていた。初日に訪れたということもあり、台風にも関わらず賑わっていたので最も興味のあるブースに限定して周ることにした。今回訪れたブースは:心と知性の関係性が理解できる「将棋から思考を探る」ブースと神経回路によって解明される「匂いを感じる脳の仕組み」ブースだ。
- 将棋から思考を探る
将棋思考プロセス研究プロジェクトが出展しており、日本の伝統文化の一つである"将棋"を用いて、人間の思考の仕組みを解明することを目的に研究を続けているとのこと。ではなぜ将棋を研究対象として選択したのだろうか。将棋の思考過程は、最終目的に向けて複雑な論理的予測の積み重ねと、困難な局面における直感的な飛躍との組み合わせにより進行し、人間に特異な高度に発達した思考の仕組みを解明する上で、重要な研究対象になると言う。"直感"はどのように発生するのだろうか、という疑問は誰にでも少なからず抱いていると思う。その原因となっているのはどうも小脳と呼ばれる脳の部位だそうだ。
小脳はどのような役割を果たしているのだろうか。そもそも小脳は大脳の十分の一程の大きさだが、その働きは決してあなどれない。例えば倒れずにまっすぐ立っていられるのは小脳の働きによって平衡感覚が保たれているから。又、目をつぶったまま鼻の頭に素早く指を持ってこられるのも、小脳が手の働きを誘導しているおかげだそうだ。小脳はこうした平衡感覚や運動機能の調節だけではなく、"記憶"にも関係しており、無意識のうちに伝える「身体で覚える」という記憶だ。失敗情報が伝わると、ルートを再編する仕組みが備わっており、失敗経験からそのルートではダメ、という間違いを大脳に知らせる誤差情報が回路を伝って伝わるようになっている。大脳モデルのコピーが小脳に作られることによって、大脳はこのように行動すれば失敗しないという予測を小脳の内部モデルを使って行い、小脳はそれを大脳にフィードバックし、その予測をもとにただちに大脳は手足を動かす運動神経に伝えるのではないかと考えられている。これが"直感"として無意識に表れるのである。
- 匂いを感じる脳のしくみ
僕達の身の回りには様々な匂いが溢れている。匂いのもとは化学物質であり、この世の中には実に数十万種類もの匂い分子が存在すると言われている。僕達の脳は、多種多様な匂いをどのように嗅ぎ分けているのでしょうか。シナプス分子機構研究チームでは、匂いを感じる神経細胞を蛍光タンパク質で標識することで、鼻から脳へと匂いの情報を与える神経回路を明らかにする研究を行っているそうだ。脳内には「匂いの地図」のようなものが描かれており、鼻に入った匂い分子は、鼻の奥にある嗅上皮に並んでいる嗅細胞の先端部分の「匂い分子受容体」でキャッチされる。受容体には様々な型があり、匂い分子は必要に王子で最小の型に分かれて、それぞれの受容体に結合する。匂い分子の情報は、受容体から嗅細胞を通って、大脳前頭葉下面にある嗅球に進む。嗅球に辿りついた匂い分子は同じ型の受容体をもつ細胞同士が集まって、特定の一対の部位に間違うことなく入っていくのだ。
匂いは脳に直結しているが故に、記憶に残りやすい。そのため、エモーショナル・デザインでも嗅覚を刺激するデザインが注目され始めている。一体匂いはどのような仕組みで脳に直結しているのだろうか。嗅級に集まった各匂い分子は認知、情動、記憶を司る脳の各部位に神経回路を伝って直接転送されることが科学的に解明された。僕達人間の祖先である類人猿はそもそも嗅覚を頼りに生活していた。匂いで危険を察知し、食料を識別してきた類人猿はやがては進化の過程において視覚を発達させ、視覚頼りの生活を送っているが、嗅覚は人間にとってもっとも原始的な感覚であるが故にこのような構造になっているとも考えられる。このことから、食べ物が目の前に出されたときにまず匂いを嗅ぐ人間の仕草は、類人猿時代からの名残なのかもしれない。これまで個人が経験してきた体験は記憶として脳に蓄積され、それらの情報を元に匂いを嗅いだ時に認知することができ、好きや嫌いといった感情を抱くことが出来るのだ。しかし、今まで嗅いだことのない特定の匂いでも危険を察知することができる理由は、元々人間の遺伝子の中に情報としてインプットされているのではないかとの説もあり、これからの研究によって明らかになってくることを期待する。
「脳科学ひろば」に訪れたことで学ぶことが出来た脳科学の役割とその意義:
- 脳の基本原理を明らかにし、"人間"を理解
- 脳疾患の原因を解明し、社会負担を軽減
- 高度な情報システムとしての脳の理解
- 脳の健全な発達・老化の解明、教育への助言
上記のブースの他にも脳の不思議や脳科学の可能性を体験できるブースも設置されていたので、存分に楽しめることが出来た。
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