2005年11月オフィシャルサイト掲載のエッセイを転載

コーディネーターが行く!と謳いつつ、今回の内容は"翻訳者が行く!"なのです。

このたび、『七剣下天山』(徳間書店)という武侠小説の翻訳に参加しました。
"武侠小説"とは日本では馴染みのない言葉かもしれませんが、日本で言うところの剣豪小説と似たものと思ってください。
監訳の土屋文子さんとは大学時代の先輩・後輩で、前回やはり武侠小説の【金庸武侠小説集】の翻訳でご一緒させていただいた縁で、『七剣下天山』翻訳でもお声をかけていただいた次第です。

*『七剣下天山』()(
*『侠客行』()()()(土屋文子訳、徳間書店)

*『神鳥剣侠』()()()()()(岡崎由美・松田京子共訳、徳間書店)

5f4ebb20.jpg さて、エイアンドピープルで行っている翻訳のほとんどは、いわゆる"技術系・ビジネス全般の翻訳"というもので、私が今回行なった"文芸翻訳"は数としては極めて少ないです。技術・ビジネス系翻訳と文芸翻訳は、一見接点のないもので、翻訳上のテクニックとしても求められるものは別個のものと考えられがちです。が、 "技術・ビジネス系翻訳"も"文芸翻訳"も、これだけは外せない、求められる能力というものがあります。それは、ほかならぬ「母国語の表現力」。

 エイアンドピープルの特長の一つは、ターゲット言語のネイティブに翻訳をさせることです。たとえば、英文から日本語への翻訳なら日本語のネイティブに翻訳させ、日本語から英語への翻訳なら英語のネイティブに、というように。翻訳者たちに求められるのは、TOEICや日本語検定試験のスコアの高さだけでもなく、海外でどれだけの他国語の教育を受けたか、外資系企業で勤務したか、といったキャリアだけではありません。母国語で、どれだけ他国語の文章を表現できるか。それが大事なのです。

 母国語を磨くには、いろいろな方法があります。日本語の場合、翻訳家の別宮貞徳(べっく さだのり)が「畢竟、翻訳とは日本語との格闘である」「翻訳家はまずなにより名文家でなくてはならない」と結論づけているように、翻訳者にとって日常生活のなかで母国語である日本語を読み、聞き、実際に使ってみる作業が欠かせません。技術・ビジネス系翻訳者ならば、専門分野のTV番組や新聞・雑誌・書籍を見たり、実際に製品が動くのをイメージして作業をしたり、インターネット花盛りの今はネット上での情報収集も必須です。一見「決まった表現」が多い印象のある契約書類ですら、最近は「一読してわかりやすいものを」という傾向から、クライアントによっては漢字を多用する表現を避けたものを要求されることもあり、"過去の契約書関連文献さえ読んでいれば良い"ということはなくなってきています。

 さて、私が行なった文芸翻訳といえば、ファッション関連の翻訳と似ているかもしれません。最近の若者言葉の傾向を捜す為にバラエティ系のTV・ラジオ、ファッション誌をチェックしたり、時代小説を訳すなら洋の東西を問わず時代小説を読みふけったり、イメージをより具体的に脳裏に描くために時代劇を見たり、「これは」と思ったものはメモ書きにするなり記憶するなりして、できるだけ言葉に出したり文章に書いてみたりして、実際に使う、といった作業をしています。

 翻訳者にとって、外国語は「できて当たり前」のものです。徒(いたずら)に誇るべきことではありません。外国語の原文を生かしつつ、いかに母国語でわかりやすく、かつ洗練された文章を練るか。それが、翻訳者が「言葉を扱う者」である限り永遠に追及していくテーマなのです。

 前述の「日本語(母国語)の磨き方」は、あくまで私の経験によるものですが、これから翻訳者を目指す方、また「エイアンドピープルに登録してみたい」と考えていらっしゃる翻訳者の方の参考になれば幸いです。


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